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愛のお荷物


■公開:1955

■制作:日活

■製作:山本武

■監督:川島雄三

■脚本:柳沢類寿、川島雄三

■原作:

■撮影:峰重義

■音楽:黛敏郎

■美術:中村公彦

■主演:山村聡

■トピックス:三橋達也は銀座の出身、江戸っ子なので「ひ」と「し」が微妙。


 厚生大臣、新木錠三郎・山村聡の実家は薬問屋さん。人口問題の深刻化(オープニングナレーションは加藤武)で、「生きる」では役所を追求し、怪獣ゴジラも全然平気な女代議士・菅井きんの厳しい追求に対して受胎調整を主張して切りぬけます。ところが錠三郎の奥さん、当年48歳の蘭子・轟夕起子が妊娠したらしいとわかり、錠三郎はおお慌て、蘭子さんも血圧アップで倒れてしまいます。

 錠三郎の息子で、センスはあるけど働くのが嫌いという典型的な「おぼっちゃま」、錠太郎・三橋達也は父親の有能な秘書、冴子・北原三枝と恋人同士です。錠太郎の妹、さくら・高友子は京都の出羽小路亀之助(略してデバガメ)・フランキー堺と婚約しています。新木家の使用人である山口・殿山泰司はお手伝いのお照・小田切みきと何やら怪しい、、というわけで「赤ちゃんが生まれまくり」状況に突入した新木代議士ははたして「有言実行」できるのでしょうか?

 山村聡のデカイ体がオロオロする様子がなんとも可愛いです。銀座育ちの三橋達也はこれが日活入社後、初の出演作品なのでつまりは三橋サンの入社記念でもあるわけで、そんなお祭りムードが楽しいだけでなく何気に「堕胎」を工作するブラックユーモアも忘れてはいません。政治生命を優先して医者にニセの診断までさせようとするんですけど結局は失敗、ハッピーエンドになります。

 その目が企んでいるのは「世界征服」ではないか?と思われる北原三枝が才媛だけど可愛いキャラ、多芸多才の三橋達也をバックアップします。珍しくってほどでもないですが東宝時代はうさんくさい役どころかまたは肉体労働者か軍人役ばっかだったような気がする田島義文がひたすら真面目なお医者サンで東美恵子とフツーの夫婦してるのが珍しかったです。

 スタア俳優を歓迎しようというムードに乗ったのでしょうか?馬鹿馬鹿しい役どころだと実はあんまり乗ってないかもしれない三橋達也が長唄を披露したり、時代劇の扮装をしたり、さえない双子の兄弟を演じたりと、合計3役で奮闘します。本人が乗ってないほど見てて面白いっていってのは皮肉ですが、ちょっと根性の曲がった役どころが真骨頂である三橋達也の本当のピークは日活時代ですので、その幕開けとしてファンにはエポックメーキングな作品と言えましょう。

 ゲストも凄くて、新木代議士の若気の至りである恋の相手は元芸者の山田五十鈴です。ベルさんをお妾さんにするなんて、やるじゃん、山村聡!てな感じですが、当時の大人の世界ってだいたいこんなもんだったんでしょうね。浮気は男の甲斐性、今だったら一発で政治生命がぶっ飛ぶんでしょうが、女性にとってはふざけた常識ですけれど、映画はそういう表ざたにならないウラ風俗の歴史もかっちりと刻んでしまいますから、お勉強になりますね。

 「愛のお荷物」というタイトルをそのまんま絵にした風刺劇ですが総じて甘いムードなんで、この監督のシニカルなしかけを心待ちにしてると肩透かし食うかも。ですが、こういう上の年代が若い世代を知恵と経験で助けるっていうストーリーってなんかイイですよね。世界観が広いっていうか味があるっていうか。

 視察に来た新木代議士を歓迎する赤線の組合長は、元突貫小僧の青木富夫(2000年「忘れられぬ人々」で三橋達也とともに奇跡の復活)。老いてますます「お盛ん」な新木錠三郎の実父に東野英治郎。え?実際はいくつ違いなの(正解は東野英治郎1907年生、山村聡1910年生)?親子っつーより兄弟なのでは?って感じもなきにしもあらずですけど。海千山千の代議士仲間に芦田伸介三島雅夫小川虎之助。超お調子者の政策秘書は小沢昭一。それぞれ出場は少ないですがそれぞれ持ち芸披露という感じで賑やかでとっても楽しい映画でした。

 このほか、もうひとりのお坊ちゃま役、フランキーのドラムソロ(ああ、やっぱり)というかなり素晴らしいプレミアもアリ。

2002年06月23日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16