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生きてゐる小平次


■公開:1982年

■製作:磯田事務所、ATG

■制作:磯田啓二、佐々木史朗

■監督:中川信夫

■助監督:鈴木健介

■脚本:中川信夫

■原作:鈴木泉三郎

■撮影:桶口伊喜夫

■美術:西岡善信、加門良一

■題字:天知茂

■主演:藤間文彦


 原作は戯曲。限定された三人の登場人物、ドサまわりの役者、小幡小平次・藤間文彦、囃子方で劇作家を目指す太九郎・石橋正次、二人に共通の幼なじみで太九郎の女房、おちか・宮下順子。本当にこの三人以外には人はおろか動物すら画面には登場しません。

 小平次は太九郎の女房のおちかに心を寄せています。太九郎は暴力亭主でしたがおちかに心底惚れていたので、おちかを嫁に欲しいと言う小平次を夜釣りに出かけた小船から突き落とし棹で滅多打ちにしてしまいます。太九郎が家に戻るとそこには死んだはずの小平次がいました。

 どの時点で小平次が本当に死んだのか?ということですが、それが現実なのか幻想なのか、おちかの魔性に飲み込まれるように、三人が三人とも奈落に落ちていくように曖昧になっていきます。妊娠したというおちかの証言は真実だったのかどうか、物語のすべてが腐れ縁を断ち切ろうとしたおちかの罠だったのかもしれませんし、そうでないかもしれないという得体の知れなさに、死生感がただよう「地獄」と「東海道四谷怪談」を混ぜ合わせたような摩訶不思議な映画です。

 本作品は中川信夫監督の劇場公開映画の遺作となりましたが、何かの運命的なこれも巡り会わせでしょうか、題字が天知茂さんなんですよね。こういうところがね、天知さんの人気なんだろうなと思いますね、人柄がね。監督の為に一肌脱いだ、って言うか一筆書いたんでしょうね。

 ATGですから予算的なものもあったと思いますけれど、今じゃ傑作って言われている「東海道四谷怪談」だってもうギリギリで撮ってたそうですから、本当に才気ばしってたんですね、金のない分はアイデアで勝負、みたいな。決して喜ばしい状況で仕事した監督だったとは言えませんが、最後になってその本領をとことん発揮するような作品を残されたと言うのが凄いんですよね。

 出演者も本当に役に魅入られるというか、作りこまれた画面の中で難しい長台詞の連続ですけれど舞台のように緊張感のある芝居です。ロケと小さなセットを照明と小道具で隅々まで使いきったのはやはり美術の力が大。太九郎の薄汚れたフンドシ、蚊帳の中にそろう三人のやりとりを包む空気感、映画館の薄暗い客席の地続きになった画面にグイグイと吸いこまれてしまいました。

 主演した藤間文彦はスポーツ劇画をドラマ化した「ガッツジュン」で主役を演じたサワヤカ美男子。実生活では藤間紫の息子さんであり、現在は市川猿之助のマネージャーやってるそうです。こないだの電撃入籍の記事に名前を発見しました。

2002年06月08日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16