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降霊


■公開:1999年

■製作:関西テレビ、ツインズジャパン

■製作:田中猛彦、下田淳行

■監督:黒沢清

■原作:マーク・マクシェーン 「雨の午後の降霊術」

■脚本:大石哲也、黒沢清

■撮影:柴主高秀

■音楽:ゲイリー芦屋

■美術:丸尾知行

■主演:役所広司


 拝啓、日本大学芸術学部放送学科に在学中の皆様。スタジオ実習の際には、なるべくお一人で深夜までなさらないことをおすすめすると同時に、本作品は実習後にご覧いただくようにお願い申し上げます。確かに日芸の江古田キャンパスはOBのカラミもあってか「湯殿山麓呪い村」(テレビだともう少しカッコイイ事例が出せるんですが、、)なんかにも登場してますが、筆者(美術学科)なんざ半徹実習しててポルノ映画の撮影に出くわしたこともありました。ま、学部が学部ですから別に驚きませんけどね。

 一見仲の良い地味な夫婦、音効さん・役所広司の女房・風吹ジュンが強力なシャーマンだったために平凡でつつましい人生にリセットがかかってしまうという、ホラー映画ではなくサスペンス映画。霊媒という胡散臭い社会的評価の中でコンプレックスを持っている女房としては、ささいな偶然によりその実力を世間に知らしめるチャンスを得たと同時に、すべてを失う可能性に気がついてしまうわけですが、結局のところ一つ嘘を付くととめどなく嘘をつき続けなければならなくなり、やがてそれが破綻するというフローです。

 霊媒という異能の人と同居するこの亭主としてはまあ一種の病気だろうくらいに思いこんで平穏な家庭生活をキープしようと考えていて、社会的に認められたいと言う女房のささいな欲望が事件のきっかけに見えますが、実のところ亭主にもそんな萌芽が何気に感じられるので映画の後半はむしろ積極的な協力者となります。

 もともとはテレビドラマであったのでテレビ向きのぱっと見派手な出演者で、物語を破綻させかねないキャスティングもあったりします。神主・哀川翔とか憑依されてる営業マン・大杉漣とか。色がついた役者は眼を引きますけれど場を選ばないと浮きまくるわけで、映画館のように一貫して集中している客からするとちょっとテンポが外れるんですよね。コマーシャルないですからね、テレビと違って。

 ビジュアルとして画面に登場する幽霊はいずれも怖くありません。脅かし方のテクニックとしては「私、リカちゃんよ(いま、あなたの後ろにいるの)」と同類。仕掛けがわかると手品師の「反対の手」と同じくミョーに背景や空間に目が吸い寄せられてしまいます。つまりはお化け屋敷の原理なので怖いと言うよりワクワクしてしまいます。こうした世界にゲイリー芦屋の田舎芝居風味の音楽がハマリにハマってます。

 最後に大学院生・草薙(←コレあて字です、スイマセン)剛と刑事・きたろうの前ではじめてイカサマをやった女房がおそらくは無意識に握り締めていた娘の髪飾りにはじめてゾクっときてしまいました。

 やはり幽霊というのは人間の罪の意識の産物なのですね。

 このほか死んだ元彼を口寄せしてもらう若い女・石田ひかり、大学院生の先生で降霊には否定的な教授・岸部一徳が出演してます。

2002年05月25日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16