地獄 |
|
■公開:1999年 |
|
筆者がこの映画と出会ってしまったのは、前田通子さんのインタビュー仕事を引き受けたことからですが、当時を思い出すと、カタギの会社に勤めててフツーなら断るよな、っていう気もするのですがなぜかすんなりオッケーしてしまい(筆者、石井監督のファンなので)、シャイな前田さんと夜中の1時まで(お店で騒いですいません)お付き合いしてしまいました。 当時、とは言えわずか3年前までは「地下鉄サリン事件」「松本サリン事件」なんてものすごくホットな話題でして、映画の製作中も監督にボディーガードつけたとか、かなりモノモノしいムードでした。 それが、まあ今(2002年)じゃどうよ?ってところで誰も口の端っこにも乗せませんよね。だから今、21世紀の今、見ておくといいんじゃないかと思うんですね、この映画。公開当時はアジテーション映画じゃないか?みたいな批評が多かったんですけど実際はもっと純粋に(だって監督が監督だし、、)「人の道に外れたらちゃんとオトシマエつけろ」という主張だったんだってことが今見るとすーっと入ってくるような気がします。 なんせ世の中、この映画ができた当時よりもっと閻魔大王を怒らせる方向で驀進中でしょ? 物語は、新興宗教に入信して修行をしていたリカ・佐藤美樹が街で不思議な夫人(キャストでは「老婆」ってあるんですけど、あーたご本人間近で見たらビックラこきますよ、だってもう肌なんかツルツル)実は閻魔大王・前田通子と出会い、地獄ツアーに招待されるところから始まります。珍しく起承転結なオープニングなんでちょっと拍子抜けです。 ツアコンをしてくれるのはちょっとノリが軽い魔子・斉藤のぞみ。リカは娑婆の法で裁けない悪を告発し、地獄の苦しみを知らしめるメッセンジャーに選ばれたのでした。落ちた地獄が、その、なんていうか中川信夫の「地獄」と比べると(比べるなって?)かなりシャビーなセットなんですけどそこいらへんは、我慢して。 若い女の子の口から「娑婆」だの「三途の川」だのアナクロなタームが、しかも若干舌足らずってところがグー、出てくるとちょっとそそられますけども映画は全然そういう雰囲気じゃあないです。後はめくるめく地獄の刑罰が血糊や血ゲロでばかすか出てきます。 新興宗教の教祖・和田洋一は実際に起きた殺人事件の首謀者として起訴されている人物で周囲もその関係者のソックリさんで固めています。青山=赤坂弁護士ってのはちょっと笑っちゃいますが、少なくとも1999年時点ではソレっぽい事を出そうモノなら暗殺でもされるんじゃないか?っていうリアルな恐怖がありました。同様に「幼女連続殺人事件」今じゃちょっと珍しいVHSビデオの山の部屋に住んでいる容疑者・平山久能も、ド変態の殺人マニアとして描かれています。 ひょっとしたら「こんなことしたら被告とその家族の人権はどうなるんだ!」とか怒られそうですけれども、だからと言って「やったこと」を「忘れてイイ」わけないですから、この映画はマスコミの視点じゃないのであくまでも個人の主張だと思ってみればいいんじゃないかと思います。モノすんごいチープなセットで、ああこんな状況でした映画撮れなくなっちゃったのか!ってこっちのほうがショックですけど。 石井輝男ならこうなるんだろうな、と思ったら期待を裏切らなかったなあ、というのが正直なところでしょうか。ファンってこういう、監督の子供っぽいストレートさに惹かれるんでしょうね。 理屈じゃなくて情、アタマじゃなくて心、っていうかイキオイ、パッション、興奮状態、てか脊椎反射。ああやっぱりこれって石井輝男の熱烈信者の映画なわけでほとんど持ち出し状態じゃないかと思いますが、それでもビデオ&DVDになったのは嬉しいことです。買いましょう&借りましょう。 セットはアレですけど、鬼のメイクやクリーチャーの造型は凝りに凝ってます。それと「忘八武士道」見てない人にはさっぱりわからない明日死能・丹波哲郎の省力化された殺陣にもご注目を。て言うか相手した赤鬼・薩摩剣八郎さん、お疲れ様でした。このほか被害者役で新東宝時代、石井輝男監督の「女王蜂と大学の竜」では万里昌代とイイ感じになる若い衆やった浅見比呂志、松竹の二枚目を経て「ハレンチ」では物凄い役をやった検事(自己紹介つき)・若杉英二が昔と変わってないんでビックリ。 (2002年04月30日) 【追記】 |
|
※本文中敬称略 |
|
file updated : 2003-05-16