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黒シリーズ 黒の切り札


■公開:1964年
■制作:大映(東京)
■製作:原田光夫
■監督:井上梅次
■助監:
■原作:
■脚本:長谷川公之
■撮影:渡辺徹
■音楽:秋満義孝
■美術:高橋康一
■主演:田宮二郎
■寸評:田宮二郎、色悪俳優では戦後最高峰の一人(ちなみにもう一人は天知茂=筆者認定)。


 根来恭平・田宮二郎は、やくざの郷田・北条寿太郎に恨みを持つちんぴらの健・待田京介、かつて郷田の黒幕である深沢・内田朝雄に父親の会社を潰された哲也・山下洵一郎を仲間に、三人で共通の敵である深沢を社会的に抹殺しようとする。身元を隠して郷田に取り入った根来は、大学の法科で同期だった検事の大崎・宇津井健に、深沢の手下で一連の汚職の鍵を握る宇部・村上不二夫の事務所から奪った裏帳簿を送ったが、深沢と郷田に裏をかかれて証人となる宇部と公団の課長を暗殺されてしまう。

 最後の対決をすべく深沢の別荘に向かった根来、健、哲也の三人は郷田に先回りされてしまい、ダイナマイトと心中させられそうになる。

 とかなんとか字面だけ追っていくとハラハラドキドキなアクション大活劇のような気がするんだけど、ああ、やっぱ田宮さんが調子こいてる映画ってどうも、その、見てるこっちが赤面するっていうか、クサイっていうか。派手でわかりやすいんだけど演出が過剰っていうか、東洋人がこなすにはあまりにもバタ臭いっていうか、ともかくミスマッチ感覚ありすぎの井上梅次の監督による「黒」シリーズ最終作品。

 産業スパイや公団汚職っていう社会派のネタは初期の作品から踏襲されてるんだけど、田宮さんが酷い目に遭う「黒の試走車」や「黒の超特急」にあった緊張感がなくなって、ただの娯楽活劇になってるもんだから、あとはどういうアイデアで客をびっくりさせるかっていうことでしょ?そんでロープウエイ(劇中ではケーブルカーって言うんだけど、あれ、どう見てもロープウエイなんだけどなあ、、)の大爆発とか、車に火をつけて崖から落とすとかの特撮(ジオラマ)がなかなかよく出来てて大映特撮チームってやるなあ、ってそういうところ見る映画じゃないと思うんだけど、そこしかないんだもん、見どころが。

 あと、田宮さんのインチキくさいサックス演奏?違うよなあ。

 宇津井健のフィアンセが当時、田宮さんとラブラブだった藤由紀子ってのは今から見ると、あ!田宮さん見てるときと宇津井さん見てるときとじゃあ瞳の潤み具合が違うじゃーん?なんて邪道な見方が出来てそれなりに面白いかも。ちなみに愛息の柴田光太郎って目のところがお母さんソックリなのがよくわかる、ファンはよおく見ておくように。

 悪役チームは「大映の天津敏」として有名な、じゃなくて筆者が勝手にそう呼んでるだけだけどさ、北条寿太郎は迫力あるんだけど脇がねえ、内田朝雄の貫禄十分なのはヨシとしても、手下の藤山浩二も今一つ目立たないし、悪役がよっぽど手強くないと二枚目って立たないのよね、キャラクターが。バカみたいじゃん?弱いものイジメしてるように見えちゃうじゃない?一歩間違えるとさ。

 根来が深沢を恨む経緯の説明が薄いのが致命傷。それで廃人同様になったお父さんってのにもうちょっと大きい名前の俳優さん使うとかで、ぐっと盛りあがって気の毒の度合いが高ければそれなり、だったんだけどなあ。路線としては「悪い奴ほどよく眠る」だけど結果は雲散霧消でちっちゃすぎ、ただヘリコに縄梯子で登るところだけ、皆さんご苦労様って感じで、全然いただけなかったな、この映画。

 のんびりしたロープウエイからダイナマイトの雨ってのはちょっと画面が間抜けで面白かったけど、別に車で行ったほうがピンチになりにくいってことくらい最初からわかって欲しかったなあ、インテリなんだからさあ田宮さんは(宇津井さんと違って、って見た目よあくまでも、ファンの人ゴメン)、と真面目に言ってもしかたないけど、さ。

 郷田の愛人で結局、根来のテクで落ちる美人ホステスに新東宝難民の万里昌代、いつ見ても姿勢がいいねえ、さすが柔道家(実家)の娘。

2002年04月07日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16