「日本映画の感想文」のトップページへ

「サイトマップ」へ


伝七捕物帖・人肌千両


■公開:1954年
■制作:松竹
■製作:小倉浩一郎
■監督:松田定次
■原作:捕物作家倶楽部(土師清二、佐々木杜太郎、野村胡堂、城昌幸、陣出達朗)
■脚色:成澤昌茂
■撮影:川崎新太郎
■音楽:万城目正
■美術:角井平吉
■主演:高田浩吉
■寸評:ミステリーの映像化がツライのは洋の東西を問わない。


 「伝七捕物帖」と聞いて速攻、中村梅之助(「よよよい×3+よい!)しか思い浮かばない筆者であるが、このヒーローの原作者は実に多い。捕物作家倶楽部のそうそうたるメンバーにとりわけ愛されたキャラクターだったそう。

 黒門町の伝七を主人公にした捕物映画シリーズ第一弾。このシリーズで戦後、本格的にカムバックした高田浩吉がとても四十スギのオジサンとは思えない若々しさで大活躍する。

 犯行予告をする大胆な連続強盗犯「疾風(はやて)」の評判は将軍家にも届いている。北町奉行の遠山左衛門尉・若杉英二は与力、同心に疾風逮捕の檄を飛ばす。その頃、三千両強奪の犯行予告が届いた大野柳斉・三島雅夫の屋敷には用心棒として町道場主の伊丹重四郎・近衛十四郎と岡引の池之端の万五郎親分・薄田研二、下っ引きの竹・伴淳三郎、紋吉・山田周平、そして黒門町の伝七・高田浩吉が集まっていた。

 犯行予告時刻になると突如、隣の屋敷から火の手があがり、一同が消化活動に気を取られているうちに万五郎親分の頭の上に石灯籠がクリーンヒット、三千両が入った千両箱が消え、大野の愛妾であるお越・藤代鮎子が殺される。大野は伝七に疾風の逮捕をぜひにと申し出て、捜査資金まで出してくれる。伝七は大野の二人目の愛人、お蘭・長谷川裕見子とその兄である伊丹重四郎の関係に疑問を持つ。

 そもそも最初に覆面被った主犯の顔の、っていうか目のアップで一発モロバレなんで、それと「私は悪いことをしてますよっ!」とアッピールしまくるある意味で親切な凄腕浪人かつ共犯の今田茂十郎・戸上城太郎のおかげでオチの見当がほとんどついちゃうんですね。こういうミステリーモノの、映画って全部が見えちゃいますから、文字で誤魔化そうとしてるところがバレバレになるのがツライところ。

 それでもビジュアル化されたことでトクするのは実は二枚目のヒーローじゃなくて悪玉のほうだったりするのが面白い。人間の欲得、業の深さというところで単なる悪人ではなくそれぞれにドラマがあるわけだけど、生身がやるとしぐさや表情で「語る」からキャラクターにぐんと厚みが増す。損してるよね、むしろ主人公が狂言回しになっちゃうから。

 松田定次の演出はオーバーラップを使って情緒を醸し出し、平板になりがちな画面に変化があって面白かったが、まあ一応、スタア映画なので平たかろうがなんだろうがどっちでもいいんだろうけどさ。それでも近衛十四郎の凄みは悪役だろうが脇だろうが全然おかまいなしで高田浩吉とタメ、あるいはそれ以上の存在感があって、戦前のジャニーズばりの美少年剣士時代のファンの期待にバッチリ応えてくれたんじゃないだろうか。

 特に今回は、あの、デッカイけど素早い戸上さん相手で手加減なし、減速なしの殺陣が見られるんで筆者としては大満足。高田さん相手でもやっぱ同じでとにかく速えのなんの、フィルムつまんでるのかと思っちゃいましたね、いや、実際。

 事件のキーマンになる長谷川裕美子は長谷川一夫の弟子で大映の美人女優。今回は悪女役だったが最後にちょっとだけ改心して味を残すというもうけ役、後で船越英二と結婚した。コメディリリーフの伴淳三郎の芸は時代を経るとやっぱりツライもんがあるな、ちょっとも笑えないもんね。ヒロインは万五郎の娘、お俊・月丘夢路、バタ臭い顔だちでちょっと勝気なお嬢様を演じる、最後に歌のサービスあり、さすが元ヅカガール。

2002年03月31日

【追記】

※本文中敬称略


このページのてっぺんへ

■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16