「日本映画の感想文」のトップページへ

「サイトマップ」へ


瀧の白糸


■公開:1933年
■制作:入江ぷろだくしょん
■監督:溝口健二
■原作:泉鏡花
■脚色:東坊城恭永
■撮影:三木茂
■主演:入江たか子
■寸評:入江たか子の顔に水をぶっかける岡田時彦、これが本当の水芸か?


 金澤をホームグラウンドにして各地を巡業している旅芸人一座の花形太夫、水芸の瀧の白糸・入江たか子。石動まで馬車で移動中、裸馬で自分を運んだイカス馬丁、村越欣弥・岡田時彦のことが忘れられない太夫は、ふとしたきっかけで再会した彼が法律の世界で身を立てようとする頑張り屋さんであると知ったのでスポンサーになることを約束する。

 東京で苦学している欣弥には無理をしてでも仕送りを続ける太夫だが、一座の家計のほうは火の車で、芸人たちも次々にやめていき、木戸番の新蔵・見明凡太郎と撫子・滝鈴子のかけおちを助けた太夫は高利貸しの岩淵・菅井一郎に体を売るハメに。太夫が死に物狂いで手に入れたお金は岩淵と組んだ一座の座頭・村田宏寿に奪われる。学費滞納のピンチに見まわれている欣弥へ金を送るために太夫は出刃包丁を片手に岩淵の家に戻る。

 無学ゆえに芸の道と美貌で自信満々の人生を送ってきた寂しい年増女が出会ったワイルドな青年(ただし顔がワイルドなのは駄目)、逞しい精神力に知性と美形が備わった、岡田時彦に貢いでいく姿には見ているほうは思わず憐憫の情を催してしまう。とにかく入江たか子の美しさがぬきんでてるわけで、この映画の魅力のほとんどすべてがココにあると言ってイイ。

 厚化粧に職業的スマイルの前半と、岩淵を殺した事実を恋人のためにひた隠しにする後半の顔はそれぞれに時代がかったのと近代的なので入江たか子を1粒で2度楽しめる。岡田時彦も同様に、野性的な二枚目な馬丁姿と後半の颯爽としつつも恋と職責に悩むインテリゲンチャ姿がこれまた楽しめる。

 水芸という一瞬の儚さを売り物にする瀧の白糸が恋に身を焦がし一旦はその名を捨てようとするが、芸人としての自覚を恋人に諭され、法廷で堂々と告白をするまでのジェットローラーコースター的な人生転落物語なのであるが、なにせ残されているのが(それでも残してくださったマツダ映画社さんに大感謝)かなり劣悪なプリント状態なので、法の裁きを受けた白糸と欣弥のラストが断片的にしか残っていないのは惜しいところ。

 恋人を回想する白糸のシーンでさかんにフラッシュバックが多用されたり、フェードイン・アウトといった合成技術も駆使されていて、いわゆる今日のメロドラマのお手本みたいな映画。

 脚本の東坊城恭永は入江たか子の3番目のお兄さん、俳優もやってたそうだ。水芸指導は松旭斎天勝と言う人で実在した(当たり前だが)美人マジシャン、プリンセス天功の大先輩格だそう。

2002年02月24日

【追記】

※本文中敬称略


このページのてっぺんへ

■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16