網走番外地 |
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■公開:1965年 |
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1959年、日活は小高雄二を主演にして「網走番外地」を制作した。こちらは刑務所に入った男が妻のことを忘れられずにいる純愛映画でおよそ本作品と同じ原作だと言っても誰も信じないようなシロモノである。「原作からもらったのはタイトルだけです」(石井輝男・談)、だからこっちは石井輝男の「網走番外地」別にどっちだっていいや面白けりゃ。 渡世の義理で殺人を犯した橘真一・高倉健は最果ての網走刑務所へ収監される。そこにはまるで漫画みたいなキャラクターがたくさんいるトンでもないところだった。同房になった権田権三(鬼瓦権三みたい)・南原宏治は前科五犯で脱走を夢見るしたたかな性格。衣田・安部徹はいわゆる古参の囚人で口癖は「俺は八人殺しの鬼寅と兄弟分」というインチキ野郎。関西弁の大槻・田中邦衛、スケコマシ・待田京介、そして謎の老人っていうか鬼寅親分・嵐寛寿郎。 橘には足の悪い妹と義理の父・沢彰謙にこき使われている母・風見章子がいる。その母が乳がんになったと知らされた橘は保護司の妻木・丹波哲郎の説諭をぶっちぎって権田と手錠でつながれたまま脱走した。 ストーリーはこの際どうでもいいのであって、ようするにトニー・カーティスとシドニー・ポワティエの「手錠のままの脱獄」から辛気臭さをそっくりとっぱらったアクション活劇という感じ。前半のお楽しみはゴージャスな男優陣による大人の会話と全裸入浴シーン。いくら演技とは言うものの、やっぱああいう状況だと病気うつったりしないのかしら?と余計な心配の一つもしてみたいところだ。 主人公のライヴァルというポジションでありながら過剰な演技で存在感をアッピールしつつ、きちんと分をわきまえてなお、そのノリの良さが見るものの胸を掴んで離さない。そういう人のことを本当に個性派っていうんだよなあという生きた見本が南原宏治である。丹波さんといい安部徹さんといい石井輝男の作品にはこうした大人の風格のある大人の俳優が不可欠なわけでそうしないとこういう荒唐無稽なドタバタコメディーは成立しないのである。 石井輝男の熱烈信者は南原さんに深く感謝しましょうね。 確信犯的に丹波哲郎の女房をぶん殴って負傷させ、イマイチ善人の健さんを悪の道に誘いこむ南原宏治。一応、冷静なフリをしつつもトロッコによるチェイスになったら完璧に頭に血が上りイキナリ健さんめがけてライフルを発射する丹波哲郎。最後は底無し沼で待田京介と心中の安部徹。いずれも見せ場がてんこもり。 手錠の鎖を切断するにはほかに方法があると思うんだけど映画的にはこのほうが盛りあがってグー。後にテレビドラマの「キイハンター」で千葉真一もやってた(お相手はチコ・ローランド、こっちのほうがオリジナルにはビジュアル的に忠実)ことだしね。ところで脱走犯追跡になぜコリー?アレ、アッタマ悪いんよ、シェパードでしょ、ここは。 (2002年02月24日) 【追記】 |
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※本文中敬称略 |
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file updated : 2003-05-16