「日本映画の感想文」のトップページへ

「サイトマップ」へ


新選組血風録 近藤勇


■公開:1963年
■制作:東映京都
■製作:田口直也、彼末光史
■監督:小沢茂弘
■原作:司馬遼太郎
■脚本:笠原和夫、加藤泰
■撮影:伊藤武夫
■音楽:斎藤一郎
■美術:大門恒夫
■主演:市川右太衛門
■寸評:御大のリアリズム時代劇、ちゃんばらトリオの南方師匠が台詞をしゃべる。


 近藤勇は作品によってキャラクターがまるっきり変わってしまう。勝てば官軍の諺の通り、純粋な人だったんだろうけど動機はともかく実際にやったことは相当にアレなので、こういうリアルに血なまぐさい役どころへ出てきた瞬間に善玉(かつ大物)というイメージが強烈すぎる市川右太衛門をもってくるのはいかがなものか。

 京都守護職の松平容保・原田甲子郎の配下であった新選組は、隊長の近藤勇・市川右太衛門とともに池田屋を襲撃し倒幕派の陰謀を粉砕。この一件で薩長から強烈な恨みを買う。隊の規律は厳しさを増していき、副長の土方歳三・加藤武は違反者を容赦なく罰した。こうした風潮に嫌気がさした山南敬助・佐藤慶は脱走未遂で切腹。

 近藤はリベラル派の伊東甲子太郎・安部徹をスカウトする。伊東と一緒に京都へ来た篠原泰之進・木村功と不思議な友情で結ばれた近藤は、坂本竜馬暗殺事件の主犯にでっち上げられ命を狙われる。そうこうしているうちに大政奉還がなされ、新撰組は病没した徳用家茂・沢村精四郎に替わった徳川慶喜・山城新伍から正式に旗本として取りたててもらうがすでに幕府の命運は尽きていた。

 「旗本退屈男」シリーズのド派手なカラースコープ画面を見なれた客は、モノクロームの暗い画面に返り血を浴びる北の御大にさぞや腰抜かしたことだろう。集団抗争時代劇「十三人の刺客」が公開されたこの年、東映のメインフレームが娯楽時代劇から仁侠映画へのシフト期間中に制作された本作品は、まさに娯楽時代劇に引導を、よりによって御大という立派な熨斗をつけて渡してしまった作品である。

 だってめちゃくちゃ浮いてるんだモン、市川右太衛門ったら。押し出しの立派さや、重厚な声質は過激派(結果的にだけれど)のリーダーとして貫禄十分なのだが、なにかと時代がかった芝居が、動脈から噴出す血飛沫の中でリアルな痛さを醸し出す中で、本人の努力はわかるけれども、殺陣の切っ先の鋭さは素晴らしいのだけれどもの、もはやまったく異質のアナクロな物体としてしか感じられないのである。

 リアリズムったってまさか市川右太衛門が死ぬはずないので、映画は新撰組が天満屋で海援隊士・青木義朗戸上城太郎らを惨殺するところで終わるのだが「これが新撰組、最後の勝利であった」のナレーションと画面に出てくる御大の姿からは「これが娯楽時代劇の最後である」に聞こえてしまってなんとも滅入る。

 このほか、沖田総司・品川隆二、藤堂平助・徳大寺伸、原田左之助・尾形伸之介、このほか山崎蒸・南方英二(ちゃんばらトリオ)がちゃんと台詞のある、かつ重要な役どころで活躍。篠原にナンパされて恋女房になるおけい・北条きく子、近藤の愛人で病死する駒野・長谷川裕見子など。

2002年02月02日

【追記】

※本文中敬称略


このページのてっぺんへ

■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16