四つの恋の物語 |
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■公開:1947年 |
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1965年、西河克巳が日活で撮った「四つの恋の物語」とは関係ないので、念のため。 東宝は徳田球一の地盤である世田谷の地に撮影所があった故か、共産党員のオルグ活動により大規模な労働争議に見舞われます。反共派だった天皇・渡辺邦男、大河内伝次郎ら「十人旗の会」は結局、東宝を去って子会社の東映商事の名前を改めた新東宝へ移ります(後に東宝と対立、完全独立別会社に)。この映画が制作された翌年、東宝は共産党員の掃討作戦を展開、1200名の首切りを発表、レッドパージに燃える進駐軍も巻き込んだ伝説の第三次東宝争議が勃発。 てなわけで東宝の歴史をサクっと説明しておくのは戦後のドサクサの最中かつ、この映画がきわめてぐちゃぐちゃドロドロの只中に制作されていたという背景の説明です。そんな中で、出征後「はやく良ちゃんが帰ってくればいいのに、、」とまで期待された池部良が抑留を経てやっとこさ撮影所に復帰したのは数少ない明るい話題(東宝的に)。 第1話「初恋」 親の都合で正雄・池部良の家に預けられた女学生由起子・久我美子が正雄とほのかな恋愛関係になりますが、二人の仲を危惧した正雄の母・杉村春子の心を感じた由起子が母親の形見のオルゴールを正雄に託し再会を誓って去ります。正雄の父に志村喬。 第2話「別れも愉し」 ヒモ・沼崎勳が新恋人・竹久千恵子と真面目に暮らそうとしていることを知った、ダンサー・木暮実千代が自分にも新しいパトロンができたと嘘をついて別れようと言い出します。ダンサーに岡惚れの大阪のビジネスマンに菅井一郎。 第3話「恋はやさし」 浅草オペレッタの役者、金ちゃん・榎本健一はバレリーナのナミちゃん・若山セツ子が大好き、でも自信がないので言い出せない。ある日、ナミちゃんは金ちゃんの態度が悲しくなって田舎に帰ることにします。エノケン一座の中村是好らがオペラ「ボッカチオ」のシーンに登場。 第4話「恋のサーカス」 空中ブランコ乗りのスタア、まり子・浜田百合子は愛人、富蔵・河野秋武がいながら庄吾にもモーションをかけるような悪女。ある日、演技の最中に富蔵は庄吾を墜落死させてしまいます。サーカスの団長に進藤英太郎、刑事に清水将夫、サーカスの団員に花沢徳衛。 黒澤明が脚本を担当した第1話では東宝の二枚目スタアの池部良がバンカラな高等学校の学生に扮して小さな久我美子(本当にちっちゃい)と木登りして戯れる、たわいもないところが魅力。三十路寸前の池部さんが詰襟着るくらいで驚いちゃいけません。「青い山脈」はこの2年後。 本当は池部さんの胸までしかない久我さんが物干し台のキスシーンでは鼻面くらいに突如成長。これって以前、平田昭彦が言ってた「良ちゃん(池部良)は背が大きいから、彼女は台に乗ってたンですよ」という撮影助手アルバイト時代のネタ元?。杉村春子が映画女優(母親役)として「大曾根家の朝」「わが青春に悔いなし」で絶好調だったころ、奔放な若い娘(て言うか小娘)と息子の幼すぎる恋愛を素直に受け入れられない母親&女のジェラシー、そしてそれをすばやく察知して共感する小娘、女って魔モノよね。 第2話は木暮実千代のジャンボなバタ臭いお色気だけで成立している、派手でわかりやすいおセンチなメロドラマ。沼崎勳も池部良も背がでかい現代的な二枚目だけど、この映画でも素直さ丸だしの沼崎さんは黒澤監督に気に入られて「素晴らしき日曜日」に出演。中年のそよ風のようなスケベパワー全開の菅井一郎が酒場に居座るシーンが繰り返し出てきて映画にテンポとリズム感があります。 第3話はエノケンのボッカチオがほぼフルコーラスで聞けるだけのミュージカル。相手がエドナ・パーヴィアンスやポーレット・ゴダードってわけにはいかないけど、若山セツ子の前で照れまくるエノケンはチャップリンそのもの。闇屋のばあさん・飯田蝶子が恋のキューピッド役。 第4話は和製スカーレット・オハラのキャッチフレーズで売り出した、ヴィヴィアン・リーよりも体脂肪率3割アップの浜田百合子が悪女役で地味な河野秋武を翻弄するんですけど、実際は河野秋武が浜田百合子の浮気相手のさらに恋人に同情したのが殺人の動機なんじゃないかという多重構造的な心理描写を台詞だけで乗りきるんでかなり駆け足気味。 ステージ外のドタバタのほうがよっぽどドラマチックな中で、各々正味30分程度の持ち時間で破綻なくまとめたラブロマンス4作品。
(2002年01月04日) 【追記】 |
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※本文中敬称略 |
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file updated : 2003-05-16