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丹下左膳


■公開:1952年
■制作:松竹京都
■製作:小倉浩一郎
■監督:松田定次
■助監:
■原作:林不忘
■脚本:菊島隆三、成沢昌茂
■撮影:川崎新太郎
■音楽:深井史郎
■美術:角井平吉
■主演:阪東妻三郎
■寸評:戦後の丹下左膳はこの映画から


 日光東照宮の改築を有力大名に押し付けて財力を弱めておこうというのが幕府の戦略です。お風呂大好きな将軍様、徳川吉宗・夏川大二郎は垢すりジジイの愚栄・菅井一郎に相談して莫大な財宝を隠し持っている柳生家にやらすことにしました。

 名門だからって金回りがいいとは限らない上に、あるんだかないんだかわかんない財宝をアテにしなくちゃならないっていうトンでもない重責を負ってしまった柳生対馬守・加賀邦男はますます悪化する吃音症にパニック起こしながらも早速、「こけ猿の壷」を手配しますがタッチの差で、冷や飯の源三郎・高田浩吉が婚礼のための引き出物として旅立った後でした。

 源三郎の婿入り先は江戸の司馬道場です。もうすぐ死にそうな道場主はなんとか生きてるうちに源三郎に跡目相続をさせたいと粘ってます。道場主の娘、萩乃・喜多川千鶴はよい子でしたが、後妻のお蓮・村田知英子は師範代の峰丹波・大友柳太朗と浮気三昧の性悪女でした。

 丹波は婚礼をぶち壊すために「こけ猿の壷」を三下やくざの与吉・三井弘次に依頼してかっぱらおうとします。ひょんなことから壷を預かった少年、ちょび安・かつら五郎は地味な顔のわりにはやることが大胆で、薄幸な恋人(まだ小学生くらいですけど)のために金を工面すべく壷を売り飛ばそうとしますが、そこを与吉にめっかります。ちょび安は長屋に住んでいる、隻眼隻腕の浪人、丹下左膳・阪東妻三郎と、口うるさい長唄の師匠、お藤・淡島千景が同居している家に息子同然の扱いでやっかいになります。

 ちょび安が持ってる壷がとんでもないお宝と知った左膳は取り戻しに来た源三郎と意気投合してしまいます。左膳と友達のテロリスト、泰軒・山路義人が壷を奪おうとしますが左膳は奪回に成功、ところが愚栄が手配した「こけ猿の壷」捜索隊、隊長は高大之進・戸上城太郎という御一党様が登場、とうとう壷は奪われますが中身はブタの蚊取り線香入れでした。

 まんまとすり替えに成功していた与吉は壷を丹波とお蓮に届けます。お蓮はちゃっかり源三郎と取引して壷を金に替えようとしますが丹波にバレて源三郎もろとも川に沈められます。山国育ちの源三郎はカナヅチだったので助けようとした左膳も激流に呑まれてしまいます。

 若くて美人の萩乃と百万両の両方をゲットしたい丹波はちょび安を誘拐して壷を取り戻そうとします。左膳は丸腰で司馬道場へ乗りこみ、やっぱり助かっていた源三郎とともに丹波一味を粉砕、左膳が「人を不幸にする壷なんかいらねえや!」と言いながら叩き壊した壷の中から出てきたのは小さな書きつけでした。

 本作品は戦前、伊藤大輔監督による大河内傳次郎の「丹下左膳」を戦後にリメイクしたもので、この後、大映が大河内傳次郎で再映画化、そして東映京都が中村錦之助、大友柳太朗と次々に「丹下左膳」を映画化します。ようするに戦争直後にGHQによって行われた「ちゃんばら映画規制」が緩和されてきた時期がちょうど1951〜1952年頃だった、ということなんですね。

 丹下左膳という不具者のアンチヒーローを戦前のチャンバラ大スタアの阪東妻三郎でリメイクしたことは、映画の復興を観客にアッピールする材料としてはよく考えられた組み合わせ。

 もちろん戦前の「雄呂血」や「砂絵呪縛」「新納鶴千代」「血煙高田馬場」みたいなバカがつくほどの大バトルを期待してるとちょっとすでにもうオジサンの領域なので辛いかもしれませんけども、やっぱカッコいいんですよね。「ケレン」のあるお約束事の楽しさを味わえる歌舞伎の風情。

 共演している高田浩吉も戦前の「歌う映画スタア」ですし、でっかい剣豪の戸上城太郎もいるし、三枚目の山路義人も、それと後に「丹下左膳」役で大当りを取る大友柳太朗もいてホント、戦後チャンバラ映画の復活を高らかにぶち上げます。子役のかつら五郎(桂五郎)は「鞍馬天狗」の人気を支えた子役の一人。美空ひばりの杉役の相棒役なんかをやってた人です。めちゃくちゃ歌が上手い、いわゆる「のど自慢あらし」みたいなタイプの子なのでぜひ聞いておきましょう、顔は可愛くないですけどね。

2001年12月15日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16