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魔像


■公開:1952年
■制作:松竹京都、松竹(配給)
■製作:小倉浩一郎
■監督:大曾根辰夫
■助監:
■脚本:鈴木兵吾
■原作:林不忘
■撮影:石本秀雄
■美術:川村鬼世志
■音楽:鈴木静一
■主演:阪東妻三郎
■備考:バンツマさんになら何されてもいい!


 この映画は阪東妻三郎が51歳で亡くなるまでに出演した終わりから3番目に公開された映画です。うんと若い頃、戦前の姿はあまりたくさん見ていないのでどれくらい衰えてるのかわかりませんが、本作品を見る限りまだ全然、元気なオジサンっていう感じなんで本当にもったいない人だったんですね。

 新参の御蔵番である神尾喬之介・阪東妻三郎はとっても美人の奥さん、園絵・津島恵子にフラれた元ライヴァルたちからさんざん嫌味を言われ続けています。元旦草々、お前なんか性格が悪いんだからフラれて当然さ!な、戸部近江介・永田光男からネチネチネチネチいじめられた喬之介はついにキレて戸部を殿中でぶった斬ってしまいます。喬之介の怒りは苛められたことだけではなく、御蔵番頭の脇坂山城守・小堀誠の不正に荷担している17人の先輩たち全員に対して爆発したものでした。

 江戸で喧嘩渡世を生業にしている無頼の茨右近・阪東妻三郎とその女房で亭主と同じくらい喧嘩っぱやいお絃・山田五十鈴は、岡っ引きをしている黒門町の壁辰親分・香川良介と仲間の金山寺屋音松親分・小林重四郎から右近とうりふたつの喬之介を匿うように頼まれます。

 脇坂山城守の不正はすでに町方の知るところとなり、南町奉行の大岡越前守・柳永二郎はポン友の魚心堂・三島雅夫を通じて密かに喬之介をフォローします。右近は喬之介と入れ替わりしながら園絵を救出し自宅へ連れて帰ります。喬之介は御蔵番の先輩を一人づつ血祭りに上げていきます。

 おびえた先輩たちは町道場主で、柄にあわず園絵に一目ボレしていた神保造酒(じんぼみき!)・戸上城太郎とその門弟をボディーガードに雇いますがあっさり裏をかかれます。その頃、悪事が露見した山城守がついにクビになり部下もまとめて処分されることになります。越前守はいち早く喬之介に事実を知らせて彼を捕らえますが、白洲では喬之介を茨右近であると決め付けて園絵と一緒に逃がしてくれる裁定を下しました。

 バンツマさんって猫背なんですよね、チャンバラやるとき一層につんのめりそうになるんですよね。「雄呂血」んときと同じなんでこれがバンツマスタイルってやつでしょうかね。さらにあのメリハリつきすぎ(白系ロシア人の血統じゃないかって噂があったんでしょう?)の顔で下から舐めるように見上げるんで、そらもう、敵方としては蛇ににらまれた蛙だって腰抜かしますよ。それと喬之介が先輩を一人づつ斬っていくと「一番首」「二番首」って数えるんですけど「桃太郎侍」みたいで凄みありますね。

 片目になった戸上城太郎と対決するときに「それじゃあハンデをつけようか」って感じでイキナリ隻眼隻腕で「どーだー」て見得を切るんですけど、原作者同じだし、おまけに次回作が「丹下左膳」だなんて、この超大スタアのサーヴィス精神には嬉しくて大感激しちゃいますね。

 しかし遺伝子っていうのはスゴイですね。子供は親のいいところをちょっとずつ継承しますもんね。つまりそれは田村三兄弟(俳優になった実子のみ)の長男の田村高廣にはおっとりとした風格、三男の田村正和には色気、四男の田村亮には清廉さ。ですがお父さんったらそのいずれにおいても息子よりか遥かに上、おまけに豪放さと愛嬌が共存していて、殺陣もケレン味とオーバーアクション満載でちょっとアブないところがこれまた魅力、とまあ三人合わせて十倍くらいにしてもおっつかないんですからどうしようもありませんわね。

 最晩年の本作品を今見てもこれくらいステキなバンツマさんなので最盛期なんか見たら腰なんかトロトロになっちゃいそうで、もうこの人になら何されてもイイ!山田五十鈴と津島恵子がマジでうらやましいです。

 後年、杉良太郎が主演のテレビ時代劇でこの映画に登場する茨右近がオリジナルと思われる「喧嘩屋右近」というのがありました。女房役にベルさんのような奇跡を求めるのは無理なのでこれは諦めるとして、今、かろうじてマトモナ時代劇見せてくれる最後の一人の杉様としてはバンツマさんには無い不良性感度の持ち味を発揮してそれなりに面白かったです。もっと予算かけてゴージャスにしてあげたかったけど時代が悪かったっすね。

 戦前から活躍しているほぼオールスタア級の共演者に阪東妻三郎の魅力炸裂の二役、丹下左膳へのオマージュというオマケつき。二役のときのオプチカル合成もがんばってるんでそのあたりもお見逃し無く。

2001年12月13日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16