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魔像


■公開:1956年
■制作:東映京都、東映(配給)
■企画:坂巻辰男
■監督:深田金之助
■助監:
■脚色:結束信二
■原作:林不忘
■撮影:坪井誠
■美術:角井博
■音楽:高橋半
■主演:大友柳太朗
■備考:大友柳太朗の二役ってちょっとニアミス。


 書院勤めを任ぜられた神尾喬之助・大友柳太朗は江戸小町と評判の高かった商人の娘、園絵・高千穂ひづると祝言を挙げますが、園絵ファンだった戸部・立松晃は面白くないので仲間と共謀して披露宴を集団欠席します。だーかーらーフラれちゃうんだってーのアンタ!と、思うわけですが、戸部とその仲間が喬之助の先輩たちだったので、恋の恨み故に職場でも陰湿なイジメが始まります。

 シカトされたりしても喬之助は一生懸命我慢してましたが、ある日、城内で大迫・阿部九洲男 、横地・清川荘司、荒木・百々木直、浅香・富田仲次郎たちにくそみそに嫌味を言われた上に足蹴にされた喬之助は突如、高笑いをして戸部の首をハネて姿を消します。

 書院頭の脇坂山城守・高松錦之助の不正を隠蔽すべく長年にわたって繰り返されてきた新人イジメの悪習を断ち切ろうとした喬之助は身分を偽って左官職人の壁辰・荒木忍のところへ隠れようとします。

 しかし、壁辰はサイドビジネスで十手も預かっていたので、喬之助は捕まりそうになりますが、この一件を機に脇坂一派を排斥しようとしていた江戸町奉行の大岡越前守・月形龍之介は岡っ引きの金山寺屋音松・市川小太夫に含みのある発言をします。音松は喬之助のことを姿形がそっくりな喧嘩渡世(トラブルバスター)の茨右近・大友柳太朗だと主張して逃がしてやります。

 ここから茨右近と喬之助は時々選手交代しながら、書院の侍17人の首を一つづつゲットしていきます。このとき「一番首、二番首、、」と呪文のように唱えるので悪者一味は恐怖のどん底、定石通り凄腕の町道場の先生、神保造酒・小田部通麿なんかを用心棒に雇いますが役に立たないんですねこれが、見掛け倒しで。て言うか役立ったら困りますが、話先いかないし。

 映画の見所は、ターゲットの背中に「忌中」の張り紙したり、殺す相手の家に忍び込んで逆さ屏風にしてみたり、いちいちもったぶった一撃の殺陣。それと大友柳太朗の二役、これは光学合成を多用した阪東妻三郎さんのバージョンとは違って本作ではもっぱらスタンドインの二役。それと茨右近の女房、お絃・花柳小菊の男勝りと対照的な園絵の楚々とした女の色気、さらに壁辰の娘のお妙・千原しのぶの失恋。いろいろ大盤振る舞いでとても楽しいです。

 阪東妻三郎さんのバージョン(1952年「魔像」松竹製作)と比べて見ると原作が同じですから大筋は踏襲してますけど、講談調で浪花節の趣がある戦前の時代劇のテンポを生かした前作と違って、本作品はより近代的な人間ドラマに重心が移動しています。

 戸部と喬之助のバトルの発端を色恋沙汰のほうに多くその原因を求めてしまい、ご政道の不正を正すという大義名分が説明不足なので「そんな理由で17人もぶった斬るのはやりすぎじゃない?」なんて思わせちゃうのでいかがなものかと思いますが、その辺は何をやっても重厚長大な月形龍之介さんの存在感でクリア、としておきましょう。

 大友さんとバンツマさんでは格がけた違いなので単純比較は意味無いし、だってあっちはオールスタア映画なんでさらにくらべっこは止めときます。大友さんはバンツマさんの「丹下左膳」(戦後のほう)では敵役でしたから。

 大友さんの魅力は大らかさ、明朗さ、愛嬌の隙間にチラリと見える凄みです。そのあたりは本作品でも存分に発揮されてるんで、大友柳太朗の「魔像」として見ごたえ十分です。

 ただし、右近の見せ場の一つで恐怖のおまじないである「坊主が上手に屏風に坊主の絵を書いた、って3回言えたら誉めてやらあ」に関してはチャンバラしながらスラスラスラスラ早口言葉を言ったバンツマさんに比べて、アップでしかもゆっくりと1回だけやっとこさ言える大友さんには見てるこっちがハラハラです。

 それに、右近と喬之助は性格が正反対の二役なのにチャンバラしだすと区別つかないんですもん。大友さんったら熱中すると殺陣の段取りすっとばして滅茶苦茶暴れるもんだから斬られ役さんが思いっきり逃げちゃうんで監督からしょっちゅう怒られてた人なのでムベなるかなって気はしますが、ファンは許しましょう。

 粛清を完了した喬之助は壁辰と音松に捕まりますが、そこでもわざと取り違え、江戸所払いの判決が下ります。喬之助は園絵と、右近はお絃とともにさわやかに江戸を旅立ちます。

 予定調和に身を委ねてさわやかな、とても感じの良い映画です。

2001年12月16日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16