脱獄広島殺人囚 |
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■公開:1974年 |
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最初に言っときますが、本作品の主人公は実在する人物がモデルだそうです。なにせ原案が「仁義なき戦い」で菅原文太が演じた「広能」のモデルになった美能幸三ですから獄中生活の生々しさと警察関係者への剛速球な批判は見る者にいかなる反論も許さないのですが、あくなき自由への執念があまりにも単純なので本物のバカに見えてきます。 戦争直後、あまりものを考えない植田正之・松方弘樹は、仲間の田上喜代松・渡瀬恒彦とともにモルヒネをさばこうとしましたが仲買人・汐路章とその愛人を撃ち殺して逮捕され、懲役二十年を宣告され広島刑務所に収監されます。 そこは刑務官・神山繁、同・名和宏、担当・曽根晴美というとても公務員とは思えない(元外資系航空会社勤務の神山繁はともかく)人たちが暴力とその日の気分で仕事をしているトンでもないところでした。ここで植田は懲罰房の汲み取り便所から1回目の脱獄に成功します。 脱獄したらおとなしく隠れているのが普通だと思いますが、植田はバカなので、パンツ縫製の下請工場を切り盛りする出来た女房・小泉洋子が恋しいというのもあったでしょうが刑事・八名信夫がバリバリに張り込みをしている神戸に舞い戻り、途中で立ち寄った映画館で「七つの顔」を見て興奮し、片岡千恵蔵を気取って拳銃ふりまわしているところをあっさり捕まり刑期が上乗せされます。 全然めげない植田は所長・金子信雄を素っ裸にして踊らせたツワモノ、末永・梅宮辰夫、婦女暴行の助造・西村晃とともに大物組長の服役囚、岡本・若山富三郎のナイスなサポートを得て2回目の脱獄に成功します。 植田もバカですが、ここの刑務所って本当に学習能力がありませんね。せっかく苦労して逃げ出したのですが、助造は進駐軍の輸送トラックにひき殺されてしまいます。 幼い頃生き別れになった妹・大谷直子のところで三国人・室田日出男、川谷拓三、志賀勝とともに牛の密殺業で一山あてた植田は、よしゃあいいのに女郎屋で他の客と大喧嘩になり、またまた逮捕されてしまいさらに刑期が増量されて収監されます。 植田の反骨精神はさらに暴走。末永を痛めつけた前戸・小松方正と交渉中にアタマ来て、って言うか最初からの予定どおり殺してしまいます。さらに植田は前戸の舎弟・伊吹吾郎から正々堂々の勝負を挑まれたのに風呂場で不意打ちを食らわしこれも殺害。オマケに独居房に押し込めた刑務官に襲いかかって重傷を負わせてしまい、ついに植田の刑期は四十年になります。 普通にニューロンが発達した人間ならここで人生をあきらめると思いますが、植田は公判中の裁判所からも逃亡します。妹の家に舞い戻った植田は三国人のチンコロにあいますがからくも逃れ、当て所ない旅に出るのでした。ってどうせまた捕まったんでしょうけど、ね。 あと成田三樹夫と菅原文太がいて音楽が津島利章ならまるっきり「仁義なき戦い」になっちゃいそうな面子とスタッフ(ナレーションも酒井哲)ですが、映画の中身はあっちのようにシリアスではありません。植田はまるで趣味で脱獄してるとしか思えない、思想性とか計画性とかそういうのは全然感じられないので、かなりアブナイ人だと言えるでしょう。 演じる松方弘樹も元東映城のプリンス(ちなみにもう一人は北大路欣也です)という看板をかなぐり捨て(ってその前にかなり捨ててますが)藪を走り、塀を乗り越え、う○こにまみれる大熱演です。 しかしなんですねどうしてか刑務所のシーンって必ず撮影所のステージ裏のあたりで撮りますよね。近いからってのもあるんでしょうが、窓が少ない無愛想な建物と万年塀のうらぶれた雰囲気がぴったりなんでしょうかね。いつだったか黒澤監督でしたか「日本の撮影所の扉は刑務所みたいでオープンな雰囲気がない!」って言ってましたが、大当りですね。 タイトルは厳ついですが中身はどう考えても結果的にせよ立派なコメディ映画です。だって「追っかけ」は喜劇映画の原点なのですから。 (2001年12月02日) 【追記】 |
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※本文中敬称略 |
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file updated : 2003-05-16