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新仁義なき戦い・組長最後の日


■公開:1976年
■制作:東映京都、東映(配給)
■監督:深作欣二
■助監:野田和男
■脚本:高田宏治
■原作:
■撮影:中島徹
■美術:雨森義允
■音楽:津島利章
■主演:菅原文太
■備考:あきらめられない男の、あきらめの悪さが招いた衝撃のラスト


 巨大な組織の横車に苦労する弱小組長の菅原文太、音楽の津島利章、ナレータの酒井哲は本作品をもって勇退します。精神的なシリーズと化した「仁義なき戦い」は一応、打ち止めとなり、タイトルだけは継承した「その後の仁義なき戦い」はあくまでも番外編という感じです。

 麻薬密売のトラブルでパンマ(売春婦)・内村レナとその情夫のちんぴらが殺害されます。構成員を殺された米元組組長、米元政夫・藤岡琢也んところの若い衆、中道・和田浩治が河原組へカチコミをかけます。米元組のバックは関西最大手の坂本組、河原組は九州および下関と広島の連合組織である七人会の下部団体、一連の小競り合いは代理戦争から本格的な抗争事件へと発展します。

 七人会の有力メンバー、九州玄竜会の船田政男・名和宏、小坂市兵衛・汐路章、本山孝夫・織本順吉、潮見俊也・林彰太郎、そして年寄り幹部の岩木定春・多々良純が気勢をあげていたところ、岩木がオカマのヒットマンに殺害されてしまいます。跡目を継ぐことになった岩木組の野崎修一・菅原文太の妹、麻美・松原智恵子は、対立組織の幹部になった中道の妻になっていました。

 親分の敵討ちを推奨する七人会幹部の仰せに従った野崎は大阪でター坊・三上寛から密入国者の元韓国軍将校のジョー・郷英冶(英はアテ字です、すんません)を紹介してもらい米元を暗殺しようとしますが、巨大組織と合併できると知った七人会は死んだ人のことより生きている人のシアワセを優先して坂本組と手打ちをしてしまいます。ところが連絡が遅れたジョーは、米元の愛人・衣笠恵子と若い衆・成瀬正がチンカモ(男女のまぐわい)しているところを勘違いして二人とも射殺してしまいます。

 坂本組はこれを口実に七人会に因縁をつけてきますが、機を見て敏の本山が野崎の独断によるものだと坂本組の幹部、松岡光治・成田三樹夫に言いつけたので、野崎はただ一人反乱軍となって坂本の命を付けねらうのでした。

 1974年に公開され映画の中身はともかく、ひたすら車をぶっ壊す楽しさを極東の民に伝播してくれたH・B・ハリツキーの「バニシング・イン・60セコンド(ってカタカナにするとちょっと難ですけど)」に思いっきり飛び付いた東映としては、社会学ドラマの誉れ高い(か?)このシリーズでもふんだんにカーアクションが炸裂させます。しかも本作品ではダンプカー(デコトラじゃあないです)も参戦しますからまさにヘビー級のド迫力というところでしょうか。

 あいかわらず東映的なゴージャスさに溢れたシリーズ最終作品です。菅原文太、成田三樹夫、曽根将之(晴美)、川谷拓三名和宏福本清三、成瀬正、汐路章というお馴染みの面々が座長大会のように見せ場たっぷりに、地元民が聞いたらぶったまげそうな怪しい広島弁や九州弁を炸裂させるという基本路線はしっかり踏襲されています。

 今回のワルは坂本組組長・小沢栄太郎ですが、還暦の祝いでもニコリともしない食えない人物造形が抜群なので、やくざのくせに畳の上はおろか、あまつさえホテルのベッドの上で射殺されるという高齢者虐待ギリギリ(当時はそんなん概念すらないですけど)の断末魔において見るものに十分なカタルシスを与えてくれました。

 しかしなんですね、「柔道一直線」放送終了後5年を経てちょっといいかんじの兄ちゃんになってた桜木健一を、それ以前の「仁義なき戦い・完結編」で失禁してましたけどそれはまあ男の子らしいかなってことでオッケー(かあ?)だったんですけども、今回はヒロポンの売人にしただけでなく愛人・横山リエに包丁振り回して追いかけられるわ、文太の逆鱗にふれた挙句に半死半生のまま焼却炉に投げ込まれるというトンでもない役どころにしちゃうなんて、まったく東映の考えていることはよくわかりませんが、東映東京でエエ思いをした奴には京都でヤキ入れするという暗黙のルールでもあるんでしょうか?

 この映画で真に「男をあげた」と言えるのは、桜木健一よりもなお小柄な身体にヒロポンパワーを全開させた尾藤イサオではなく、聾唖者というハンデをものそもせず、野崎の隠れ場所を坂本組に密告した外道の地井武男を抹殺し、暗殺チームのリーダー・八名信夫を討ち取ってなおかつ、瀕死の姿で組長の姉さん・中原早苗から言付かった逃亡資金を野崎に渡して笑顔で絶命した東吉・梅津栄でしょう。これほど観客の同情を買った梅津栄を見たことがありません。もちろんルンペン姿の圧倒的なリアルさは定番でしたけれども。

 菅原文太の男の怒気と哀愁にみちた表情を小沢栄太郎&成田三樹夫の射殺シーンで炸裂させた後、名もなきチンピラに襲撃させるという衝撃のラストシーンでこの、ゾンビのごとき暴力団映画シリーズは終焉したのでした。

2001年11月25日

【追記】

※本文中敬称略


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file updated : 2003-05-16