新仁義なき戦い・組長の首

■公開：1975年
■制作：東映京都、東映（配給）
■監督：深作欣二
■助監：清水彰
■脚本：佐治乾、田中陽造、高田宏治
■原作：
■撮影：中島徹
■美術：鈴木孝俊
■音楽：津島利章
■主演：菅原文太
■備考：三上寛が演じる流しの芸名は「小林旭」

「仁義なき戦い・完結編」公開と同じ年、人徳なさすぎの親分、金子信雄を担いだ菅原文太の苦悩を描く「新仁義なき戦い」を平然とスタートさせた東映が放つ、新シリーズ第２弾はフリーランスになった菅原文太が特に何もしないうちに映画がどんどん進んでいくというフレッシュな構成に（か？）

　北九州の暴力団、大和田組組長、大和田徳次・西村晃の娘婿、楠鉄弥・山崎努は男を上げるために対立する組織の親分を暗殺せんと港へ向かいますが、直前にヒロポンが欠乏し焦って液体を飲んでしまうという荒技に出ただけでなく、チャカも不発で踏んだり蹴ったりな状態でしたが、代理人として契約していた旅人、黒田修次・菅原文太に助太刀を頼んでなんとか成功。黒田は身代わりとして服役します。

　刑務所で「貞操の危機」を黒田に助けてもらった志村勝男・小林稔侍は先に出所し、仲間の流し、芸名「小林旭」こと笹木茂・三上寛とともに黒田の舎弟になります。黒田は楠に大和田組へのとりなしを依頼しますが楠はますます深刻なヒロポン中毒になっており、組長の愛娘で妻の美沙子・梶芽衣子のヒモに成り下がっています。

　大和田組は若い者頭の相原重彦・成田三樹夫が兄貴分の井関政治・織本順吉や実力派の赤松猛夫・室田日出男を差し置いて、大阪の野崎組組長、野崎浅次郎・内田朝雄と手を組んで成り上がろうとしていました。黒田は身代わりの報酬の代わりに、相原からヒロポンを赤松の縄張りでさばくように依頼されます。

　案の定、赤松の妨害工作にキレた茂が赤松と相討ちになります。相原の陰謀を察知した大和田組長は井崎に跡目を譲りますが、先手をうった相原は鉄弥を唆して義父を射殺させます。茂の仇討ちと大和田組への復讐をもくろんだ黒田は鉄弥についていた若い衆、須川国光・渡瀬恒彦らととも挨拶まわりに出かけた相原一行を付けねらうのでした。

　今回の菅原文太はあまり活躍しません。やっと歳相応の落ち付きを出したというか、手のかかる金子信雄が勇退したんで気が抜けたってわけじゃないでしょうが、頭脳派の成田三樹夫と野獣派の室田日出男の間で、権謀術数をめぐらし結果的に若い衆を犠牲にしながら、ついには人のよさそうな織本順吉を担いで大組織を食い物にせんと生き残ります。

　その室田さんと成田さんを二股かけて、実は西村晃さんともナニしてたっていうヴァイタリティーありすぎな綾・ひし美ゆり子は付き合う男が片っ端から早死にするというヤな女ですが、時には健康的なお色気で、あるいは泣き落としで、この抗争事件を生き残るというシブとさは男社会の「仁義なき戦いシリーズ」の中でも屈指のリアリティがあるキャラクターです。ある意味、文太さんより上手で天晴れです。

　ヒロポン中毒患者と言えば「私設銀座警察」の渡瀬恒彦、「仁義の墓場」の渡哲也が有名ですが、本作品の山崎努もクスリでしくじった挙句にキチガイ病院送りとなります。心身ともにボロボロになった時のメイクがちょっと「八つ墓村」入ってるんでかなり怖いものがあります。

　しかしなんですね、三上寛。ギター背負って出てきたときから嫌な予感はしてたんですが、この人ったら1977年にＬＰ「ピラニア軍団」を中島貞夫と共同プロデュースしたキテる人ですから、そらもうノリのいいことこの上なしです。旭さんの「ギターを持った渡り鳥」を夕日の効果バッチリでしみじみと歌いこんだりします。そして文太から託されたヒロポンを取り戻すべく室田日出男のタマを取るという大金星でした。

　さて、この人を忘れてはイケマセンね。楠鉄弥を最後まで守りぬき、負傷しても文太のために逮捕される渡瀬恒彦と、彼を尋問する刑事・川谷拓三との肉弾戦。責められる一方の恒さんがやかんのかかった火鉢へ体当たり！ひっくり返って白い煙をあげるだけならまだしも一歩まちがえれば恒さんの身体に熱湯が！その時、押さえ込むふうにして恒さんを必死でかばったのは拓ボンと成瀬正でした。凄えや、東映京都！

　成田三樹夫が襲撃されるキャバレーのシーンで、妙に動きが機敏なボーイがいます、な、なんとそれは旧シリーズでおなじみのアノ人[千葉真一]でした。いやあ、恒さんと被らなくて良かったっすねーって「戦国自衛隊」じゃないですけど。ネタばれなんで読みたい人だけ読みましょう。

（2001年11月18日）

【追記】

※本文中敬称略

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