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■公開:2000年
■制作:松竹、衛星劇場、毎日放送、ほか、東京テアトル(配給)
■プロデューサ:椎井友紀子
■監督:阪本順治
■助監:井川浩成
■脚本:阪本順治、宇野イサム
■原案:宇野イサム
■撮影:笠松則通
■美術:厚田満生
■音楽:coba
■主演:藤山直美
■備考:だから映画にはアップがあるんだと、、、


 「顔=ブス」ですね、この映画のタイトルは。藤山直美が演じるブス女があまりにも芸として見事なので成立している映画です。そうでなければ単なるガッツの押し売り的なかなり暑苦しい映画になっていたのではないかと想像されます。

 クリーニング屋を営む吉村常子・渡辺美佐子の娘、正子・藤山直美は裁縫の腕には定評がありましたが、ほとんど引きこもり状態です。正子の妹で水商売をしている由香里・牧瀬里穂は、醜い姉をまるで人生の敗北者のごとく嘲り、疎ましく思っています。ある日、母の常子が死んでしまうと、正子の引きこもりはますますひどくなり、ストレスがたまった由香里は正子に殴りかかります。

 葬儀の夜。とうとう正子は由香里を赤い毛糸で絞殺します。香典とアルバムを手に家出した正子は阪神・淡路大震災に遭遇します。

 経営難のラブホで受付のオバちゃん・正司照江にスカウトされた正子はそこで働きますが、自転車の乗り方を教えてくれた社長の花田・岸部一徳は首吊り自殺します。警察が来る事を怖れた正子は逃げ出しますが慣れない自転車で転倒し思いっきり顔面を強打。時速140キロのデットボールを顔面に食らった巨人の村田もびっくりするくらい腫れ上がってしまうのでした。

 大分へ向かった正子はかつて見かけた営業マンの池田彰・佐藤浩市に偶然再会し、彼の妻がいる別府で飲み屋のママ、律子・大楠道代の世話でホステスとして働き始めます。

 逃げる途中で大地震に遭い、由香里の亡霊に悩まされつつ、行きずりのトラック運転手・中村勘九郎に強姦されたり、オッカナイ女房・早乙女愛がいる映写技師・國村隼と関係したりしながら正子は逃亡を続けます。途中、例の事件の犯人を想像させる整形美女(なんか土曜ワイドのタイトルみたい)・内田春菊とも出会ったりして、正子は本州を脱出。瀬戸内海のある島に辿り着くのです。

 喜劇の天才・藤山寛美の娘であり、現在、新生松竹新喜劇の看板女優である藤山直美が超多忙のスケジュールをなんとかやりくりして主演した本作品。演劇と映画の一番わかりやすい違いは「アップ=大顔面」があるかないかなので、そのあたりも藤山直美の今まで見ることが出来なかった部分を見せてくれた貴重な映画であります。

 この、肥り肉(ふとりじし)の女が人生をリセットしたとたんに大震災が起こってしまい、彼女は大切にしてたアルバムを放り捨てます。証拠と成るような品を一切残さないと、この時、正子は本物の逃亡犯になる決意をしたのですが、彼女は最後まで由香里を殺したことを後悔しています。「生まれ変わるのが怖い=死ねない」なら生きて逃げるところまで逃げようということになるのですが、彼女は由香里を生まれ変わらせることに失敗し、船の中で流産したことに号泣します。

 現実をうっちゃった正子に対して、兄弟のしがらみが切れない律子、やくざから足を洗えない律子の弟の洋行・豊川悦司、奥さんが怖い映写技師、リストラされて子供を養わなければならない営業マン、それぞれの人生に関わりながら正子は一つづつ、成長して、そして捨て去って行くのです。

 一見、痛快に見える映画ですが、出会う人たちがそれぞれ抱える悩みや苦しみがすべて正子が飢えていた、求めつづけて手に入れることができなかった人間の情における苦しみのサンプルであるという皮肉なオチがついているのです。

 「さらばじゃ!」この台詞、藤山直美(か、または父親の藤山寛美)以外、絶対に使えないと思います。現実社会で起こった同僚を殺害した会社員の女が整形して逃亡しつづけた事件に精神的なヒントを得ているかもしれませんが、アレといっしょくたにしちゃイケマセン。己の身の上に照らし合わせてしみじみとエンディングを迎えましょう。

2001年11月18日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16