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女経


■公開:1960年
■制作:大映東京、大映(配給)
■監督:増村保造(第1話)、市川崑(第2話)、吉村公三郎(第3話)
■脚本:八住利雄
■原作:村松梢風
■撮影:村井博(第1話)、小林節雄(第2話)、宮川一夫(第3話)
■美術:山口煕(第1話)、渡辺竹三郎(第2話)、柴田篤二(第3話)
■音楽:芥川也寸志
■主演:若尾文子(第1話)、山本富士子(第2話)、京マチ子(第3話)
■備考:毎日映画コンクール主演女優賞(山本富士子)、監督賞(市川崑)


本作品は3話からなる、オムニバス映画です。

 第1話「耳を噛みたがる女」

 赤貧のダルマ船の生まれで、両親と妹を食わせるためにキャバレー勤めをしている紀美・若尾文子は、売春婦まがいの手口で、しかも本当にしてやるんならまだしも、いざ本番というところでやれ「親が手術」だの「性病になっただの」無理やりな理由でもって、男から金だけまきあげてしまうというトンでもない女です。

 紀美は大企業重役の御曹司、田畑正巳・川口浩にだけはマジ惚れです。こんな彼女にも理解者はいて、先輩ホステスの五月・左幸子はなんとなく彼女の味方をしてくれます。友達の春本・田宮二郎とくだらない賭けをした正巳は紀美が心から自分のことを愛していると知ります。紀美は正巳と相思相愛になりかかりますが、正巳は気のすすまない相手と政略結婚させられそうだと知って結局は身を引いてしまうのでした。

 ヴァイタリティーあふれる姉に憧れる妹へ「もっとオッパイがおっきくなんなきゃ駄目よ」と直球なアドバイスをする紀美を、オリエンタル・セクシークイーンの若尾文子があっけらかんと、でも、なんとも言えないやるせなさでもって情感たっぷりに演じます。

 耳は性感帯の一つです。そこんところを例のちょっとはれぼったいセクシーな唇で上手く攻撃する紀美のエロっぽさは、さすが増村保造、というところでしょうか。

 第2話「物を高く売り付ける女」

 言っときますがこれはSF映画です、間違いなく途中までは。

 神経衰弱気味の流行作家、三原靖・船越英二は湘南海岸で生命力の希薄そうな謎の未亡人、土砂爪子・山本富士子を見かけて、その、ミスユニバースなお色気に吸い寄せられるように、彼女に誘われて自宅だというボロっちい屋敷へ入っていきます。爪子は夫と住んだこの家がいとおしいのだが実家から早く立ち退けと言われて困っている、ついてはこの家屋敷を600万円で買ってくれと三原に持ちかけます。ほっとくと自殺するんじゃないかと心配した三原はあっさりと売買契約書に捺印します。

 実はこの女、生活のために不動産屋の大石・菅原謙二、百々・潮万太郎、人形・大辻伺郎と組んで三原をだましていたというしたたか者でした。三原の作家としての好奇心につけこんだつもりの爪子でしたが、三原は意外なところで爪子の正体を見破っていました。

 美人薄命を体現していた山本富士子が映画の後半では台所でリンゴを立ったままかぶりつく下世話感全開のやり手女に変身してしまうギャップが最大の見所です。とは言うものの、やっぱり美人ってトクよね、っていうオチなんですがそれもまあ、お富士さんですから誰も文句は言わないでしょう。

 第3話「恋を忘れていた女」

 お三津・京マチ子は昔、芸者だったときに老舗旅館の碇屋へ嫁入りし、時代錯誤の経営方針を大転換させ今ではキャバレー、お茶屋を手広く経営する実業家です。しかし男運には恵まれず、夫には先立たれ仕事一筋で再婚もしていなかったのですが、嫁ぎ先の先代、五助・中村鴈治郎がスケベオヤジで時々関係したりして(それじゃあ「鍵」だ!)かなり不遇でした。

 義理の妹、弓子・叶順子が甲斐性無しの恋人、吉須・川崎敬三と結婚したいから金を貸して欲しいと頼みに来ますが、お三津は将来性の無い男に投資するのは駄目だとすげなく断ります。このまま素直に引き下がるような叶順子、いえ、弓子ではなく「なんでも損得で考えるようなあなたには一生恋人なんかできないでしょうね、それにもう若くないんだしっ」と心臓をえぐるような捨て台詞を残しました。

 あんた何様?て言うか、さすが!コワイもん知らずの叶順子!

 お三津はその日から「本当の恋」を求めますが、やっとこさ再会した昔の恋人、兼光・根上淳は詐欺犯として逮捕されてしまうのでした。修学旅行に来ていた生徒が交通事故に遭い輸血が必要だと知ったお三津はすすんで自分の血を提供します。喜んだ生徒の笑顔を見たお三津は人情に目覚め、弓子にお金を貸してあげるのでした。

 結局、女の「善良さ」ってなんなんでしょうね?という問いかけについて3つの事例で紹介するわけですが、所詮は男の目から見た筋書きだわね、というのが正直なところです。大体その、イイトシこいてからやっぱり最後は「愛だろ!愛」なんて考える女が世の中にどれくらいいるか?っていうことです。

 そういう観点からすれば、キャリアウーマンが人情にめざめるオーソドックスな第3話が一番現代的で説得力あるように思われ、映画的に面白いのは狐と狸のばかしあいの第2話であったと思います。

 テーマと作り手の組み合わせは面白かったんですがそれぞれ30分かそこらにまとめると、市川崑のリズムとテンポが最もマッチしてたっていう結果です。残る二人は割り食った気がしますが、大先輩の吉村公三郎はキャメラに宮川一夫をゲットしてるんで、増村保造にはちょっとハンデがきつかったかも?

2001年11月11日

【追記】

※本文中敬称略


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file updated : 2003-05-16