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座頭市と用心棒


■公開:1970年
■制作:勝プロダクション、大映
■監督:岡本喜八
■助監:
■脚色:岡本喜八、吉田哲郎
■原作:子母沢寛
■撮影:宮川一夫
■美術:西岡善信
■音楽:伊福部昭
■主演:勝新太郎
■備考:ガメラ対ゴジラ、ついに実現?


 勝プロダクションになってからの「座頭市シリーズ」は勝新太郎が才気走って空回りするようなこともあったので出来不出来が賛否両論ですが、それでも勝新太郎=座頭市のサービス精神と研究熱心は素晴らしく及第点以下というのが25作品中1本も見られないというのは偉大です。

 死体から金品を剥ぎ取るようなすさんだ時代、かつて訪れた豊かな里へ座頭市・勝新太郎はやってきます。しかしそこは飢饉が続いて近隣から続々と押し寄せた難民を排除するためにやくざを雇ったのが運の尽きですっかり荒れ果てていました。里を束ねていた兵六・嵐寛寿郎は落ちぶれて今では、生糸問屋の烏帽子屋弥助・滝沢修の依頼で130体のお地蔵さんを彫っています。

 やさしい生娘だった梅乃・若尾文子は烏帽子屋への借金のために身体を売るようになっていました。烏帽子屋には二人の息子がいました。出来の悪い政五郎・米倉斉加年は小仏一家を率いるやくざの親分に、成績優秀な三右衛門・細川俊之は金座の婿養子になって出世しました。

 梅乃の店に入り浸る浪人・三船敏郎は政五郎に雇われている用心棒です。政五郎は父親が隠している金の延べ棒を探していました。座頭市が里へ来たその夜に、里にいたたったひとりの按摩・砂塚秀夫が殺されました。実は彼は三右衛門が荷担した公金横領の証拠を探っていた公儀隠密だったのです。

 政五郎は弥助に雇われた座頭市を斬るように用心棒に頼みますが、用心棒は座頭市と意気統合してしまいます。そこへ江戸から九頭竜・岸田森という殺し屋がやってきます。弥助に預けた大量の金が政五郎に狙われていると知った三右衛門がボディーガードのために雇った男でした。焦った政五郎は烏帽子屋の蔵に放火しますが金はどこからも出てきませんでした。

 幕府に追われた三右衛門が里へ逃げて来ます。ちょうど到着した八州見廻りの脇屋陣三郎・神山繁も実は弥助とグルでした。立ち去ろうとする陣三郎たちを九頭竜が皆殺しにします。用心棒は座頭市と組んで金の在り処を探します。用心棒と九頭竜はどうやら知り合いで、九頭竜の正体は跡部という侍で彼も公儀隠密でした。用心棒も本名を佐々大作と言い同じ隠密でしたが梅乃に惚れて脱退しようとしていました。

 勝新太郎 対 三船敏郎。戦後リアリズム時代劇の両雄対決は大映と東宝の代理戦争(って実は二人ともとっくに独立プロ持ってるんですけどね)てな感じで、まるでガメラVS.ゴジラのようでもあり、まさに夢の対決となりました。当然ながらこの作品は興行成績もシリーズ中ダントツだったんですけど、勝負の行方は案の定、ドロー。まあどっちが死んでもマズイって言うか、だってスタアプロダクションの社長対決でしょう?冗談でも負けるわけにいかないでしょうが。

 九頭竜の武器が二連発銃だったのでこれは「用心棒」の仲代達矢へのオマージュなのかしらとちょっと笑ってしまいましたが、とにかく三船敏郎はこれでもかというくらい黒澤監督のキャラクターそのまんま。かと思いきや、ちゃんと「暗黒街の対決」のときのようにゴロんと横になったので両作品のファンとしては大変に喜ばしていただきました。

 が、面白いのはそれだけで、つまり梅乃の若尾文子にそもそもそんな魅力があるのだろうか?っていう点が最大のほころびで、この人は悪女役で輝く人ですから薄幸な美女とか全然似合いませんね。かといって情念の濃さでは浅丘ルリ子のように「狐が着いたんじゃないか?」っていうテンションの高さもないので、悲劇のヒロインみたいなストレートなキャラクターだとすっかり死んじゃってます。

 弥助と政五郎と三右衛門の親子の相克とかも今一つなんですね。もちろん滝沢修の熱演は素晴らしいので感動しますが、どうもこの人の全身から立ち上るノーブルなオーラが「ワシの金だああああ」って身を破滅させるほどの金銭に対する執着心に直結しないので結果的に弱いんですね。

 岡本喜八監督らしさが出たのはアナーキーな若い衆が出入りで全然役立たずでそのまま消えるのかと思ったら実は公儀隠密の手先だったって言うトリッキーなオチ。こういうのが身上の監督に三船と勝新太郎と二人をさばいてくれって言うのはかなり無理やりです。

 それでもユーモアだけは忘れてませんでした。

 ラストの対決でちゃっかり金を持ち出そうとして失敗した座頭市と一緒に砂金をかき集める三船。二人でニヤリと笑うところがまるでハンフリー・ボガートとティム・ホルトの二人がジジイ(ウォルター・ヒューストン)の言葉を信じて黄金を探しに行ってすったもんだの挙句、やっと手に入ったと思った砂金が砂と間違えられて捨てられてしまい、強風にぶっ飛ばされて大笑いというジョン・ヒューストン監督の名作「黄金」そのまんまなので知ってる人は思いっきり笑えます。

2001年11月04日

【追記】

※本文中敬称略


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file updated : 2003-05-16