名探偵明智小五郎シリーズ 青銅の魔人 |
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■公開:1954〜1955年 |
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これ1部〜4部を通しで見ると2時間(も)かかるんですね。公開は1954年12月から1955年の1月まで1週間おきに封切られているのでようするに30分4話完結の連続ドラマなんですね。まるでテレビドラマのようですがなるほど中身も電気紙芝居並でした。 深夜の銀座、宝飾店のシャッターがまるで紙細工のように壊されてしまいます。犯人は大仏のような頭をした、ガニマタで全身鋲だらけのヘンな魔人です。手から謎の光線を出して追ってきた警官のサイドカーをひっくり返して姿を消します。その日から青銅の魔人と呼ばれるようになったのですが、魔人はアンティークの時計が大好きで大は時計塔の大時計から小はマントルピースの上の置時計まで片っ端から盗みます。 こんなにトロくてダサい魔人に手も足も出ない警視庁の中村警部・須賀不二夫は次に狙われそうな、大磯にある元侯爵の水野家に代々伝わる「帝王の夜光」という舶来の時計を魔人の手から守るため、当主の水野・片山明彦の妻・由美あづさの依頼で名探偵、明智小五郎・若杉英二と少年探偵団に協力を依頼します。 例によって例のごとく、ナイスな勘だけで犯人が「原子炉大好き」な怪人二十面相・諸角啓二郎だと決めつけた明智は、「帝王の夜光」にウラニウム鉱の隠し場所を記した2枚の地図の片割れが隠してあることをスラスラと突き止めます。 魔人は地下に秘密基地を作っています。彼(だか彼女だか)は「ギギギー」とか「ウガガガー」とかしか喋れないゼンマイ仕掛けの人なので、謎のピエロ・桂小金治を通訳兼パシリに使って水野夫人と実弟の昌一・中村俊介を小林少年・高山武男とともに誘拐します。そこへどういうわけかイキナリ透明人間が登場して人質を助けてくれました。 いったんは逃げ出した二十面相でしたが、ウラニウムは欲しいので、もう1枚の地図の在り処を求めて旧領地である佐賀県へ向かった水野と明智の後をひそかに追います。そこにはチョンマゲを結ったアナクロな爺や・多々良純がいて親切にしてくれますが、地図の所在を知る手がかりになる先代当主の遺言書ごとあっさりと誘拐されてしまいます。明智と小林少年、そして水野たちは旧領地であり玄海灘の真中にある無人島、獅子ヶ島へ向かいます。 結局、地図は大磯の家にあるとわかって一同は急遽Uターン。二十面相は水野を誘拐して、こともあろうに透明人間と明智小五郎に向けて「人質と地図を交換しませんか?」という新聞広告を出して、おまけに明智のオフィスに直接、電話までかける始末です。いくら通信手段が未発達な時代とは言え、怪人のわりには素顔をバンバンさらすし、二十面相ってかなり大胆な人、て言うかミステリアスなところが微塵もない単なる強盗団になっちゃってるような気がします。 透明人間の正体が明智だと知って、追い詰められた二十面相とその手下一味は警官隊と派手な銃撃戦を繰り広げますが、なんと少年探偵団の投げ縄ごときで軽機関銃を奪われてしまっただけでなく、子供たちに追い掛け回された挙句に砂利を投げられてあっさりと全滅、鉄塔に逃げた二十面相は手榴弾で自爆します。 「透明人間のトリックはブラックマジックだったんだよ」と朗らかに少年探偵団に解説する明智小五郎。でもそれってバックを暗くして体を黒い布で隠すブラックシアター(別名・黒魔術)っていう撮影技法なんであって、別に昼日中姿が見えなかったこととかオーバーラップで忽然と姿が消えちゃう解説には全然なってないんじゃないかと思うんですが、素直な小林少年は満面の笑顔で偉大な明智先生を尊敬するのでした。 主演の若杉英二については、石井輝男監督の「異常性愛シリーズ」の中で入れ墨奨励将軍とか変態スケベな役どころの印象が強かったのですが、事故死した高橋貞二のピンチヒッターとして地方公務員から松竹へ入社したキャリアを持つ、真面目で大柄なナイスガイという本来のスペックをこの作品でやっとこさ確認した次第です。しかし、でっかい人でよねホント。この体躯の良さを買われて石井監督のデビュー作「リングの王者・栄光の世界」というボクシング映画の主役に起用されるはずだったらしいんですが、監督がダメ出しをしてその役は宇津井健になりました。理由は本作品を見れば明らかです、とにかく動きが思いっきりトロいんですね。たぶん、柄にあった大らかな性格のようですので、友達にはなれそうですがこういうヒーローものにはちょっと、ねえ。 どこが怪人なのかよくわかんない諸角啓二郎ですが、なにせ変装がばれて正体を明かすシーンでさかんにオーバーラップを多用するので、変装の名人っていうよりは変身してるとしか思えないんですね。ファッションもフツーのスーツだし、怪人っていうよりただのテロリストかギャングなんですね、この映画の二十面相は。悪だくみ全開顔の諸角よりも、二枚目だけど何考えてんだか不明っぽい片山明彦かなんかにやってもらったほうがよっぽど意外性があって良かったと思うんですけども。 子供向けのプログラムピクチュアのわりには範となるべき明智小五郎がやたらと「チキショウ!」なんていうスラングを連発したり、二十面相に美貌の愛人・草間百合子がいたり、実弾飛び交う現場へ子供を平然と同席させ、かと思うと犯人追跡という危険極まりない任務を小学生に負わせてそれを「探偵修行」と言いくるめる明智小五郎ってまるで角兵衛獅子の親方みたいで子供の教育上トンでもない野郎のような気がするんですけどね。 文字だと適当にごまかしてあるものが映画にすると見えちゃいますから、まして想像力の逞しい子供向けに書いてある原作でしょう?イメージを膨らますヒントだけを頼りに素直にビジュアルにしたら、こうなっちゃうのは仕方ないかもしれないですから、大目に見ましょうね。 (2001年11月04日) 【追記】 |
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※本文中敬称略 |
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file updated : 2003-05-16