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明治一代女


■公開:1955年
■制作:新東宝
■監督:伊藤大輔
■助監:加戸野五郎
■脚色:成澤昌茂、伊藤大輔
■原作:川口松太郎
■撮影:鈴木博
■美術:松山崇
■音楽:伊福部昭
■主演:木暮実千代
■備考:田崎潤は本作品で伊藤大輔監督に見出され「下郎の首」に主演。


 叶屋お梅・木暮実千代は柳橋きっての三味線の名人。お梅には相思相愛の恋人で花形役者の沢村仙枝・北上弥太朗がいますが、仙枝の贔屓で娘の小吉・藤木の実と仙枝を結婚させようとしている茶屋の女将、お秀・杉村春子は、お梅をなんとか仙枝から引き離そうといろいろと意地悪します。

 仙枝は三代目仙之助の名を継いで一本立ちをするのが夢。お梅は襲名披露の金を工面しようとしますがそこへ立ちはだかったのがお秀です。柳橋の芸者衆、浜次・相馬千恵子、八重・若杉須美子(若杉嘉津子)を味方にして「どうぞ一人で立派な披露をさせておあげなさい」と満座の席で言い放ちます。おまけに仙枝の親方、尾上梅寿郎・市川小太夫にも手を回し仙枝と別れるように仕向けます。

 お梅に片思いしていた箱屋(お座敷に上がる芸者の三味線を箱に入れて運ぶ職業)の巳之吉・田崎潤は親の財産をたたき売って作った金をお梅に渡し、意地が立ったら自分と結婚してくれと頼みます。しかしお秀は仙枝を莫大な金で拘束してしまい、お梅と会わせません。ジレたお梅は金だけはなんとか仙枝に渡しましたが、巳之吉のために仙枝に会ってちゃんと別れようと船宿、稲舟の女将・千明みゆきに頼んで身を隠し、仙枝を待ちます。

 仙枝との仲を邪推した巳之吉がお梅に襲いかかりますがもみ合ううちに逆に刺されて死んでしまいます。自首をすすめるお梅の弟、武彦・井上大助と母お兼・浦辺粂子の言葉を振り切ったお梅は仙枝の襲名披露だけは見ておきたいと言い残し姿を消します。

 お梅の行動を現代のセンスで共感するのと、伊藤大輔の演出のテンポに最初っからついていくのはちょっと難しかったので、映画の中盤までは、正直言ってかなり退屈でしたが、巳之吉をうっかり殺してしまってからは、お梅のやりすぎな純愛を誰か受け止めてあげてえっ!と思わず応援してしまいました。

 この映画の魅力は木暮実千代のジャンボなお色気と田崎潤の軽妙で愚かな男気です。逞しい顔の田崎潤が目張り入れて出てきたときには正直なところ「げっ!似合わねーっ!」となりましたがいよいよ嫉妬に狂ってお梅殺しを決意するときの凄みある表情は素晴らしいものでした。雨でぬかるんだ橋の上でのくんずほぐれつも、なんせホラ、木暮さんってデカイですから並みの男じゃぶっ飛んじゃいますが、軽演劇出身の鍛えた体でこれもなかなか迫力ありました。

 しかしヤな女ですよねー杉村春子(が演じるお秀)とその娘の藤木の実(が演じる小吉)。同じ年増というランクでありながら木暮実千代と比べると不細工だしスタイル悪いし性格ブスだし、まあそういうハンデがあってこそキャリアウーマンとして大出世したんでしょうが、その見果てぬ夢を託したのがあんな脳みそがハエくらいなんでデリカシーの欠片もない馬鹿娘というわけですから客の同情が全部、木暮さんに流れるためには十分過ぎる敵役です。お秀が本当にブスな女優だったら洒落になりませんけど杉村春子の場合はそのしぐさや目線の配り方が、嫌われ者のオーラを放ちまくるので素晴らしすぎるわけです。

 警邏の温情もあって仙之助の襲名披露を見ることができたお梅はとうとう逮捕されます。お梅が去った後、喝采を浴びた舞台に引かれた幕にはお秀や柳橋芸者衆の名前はなく、お梅の名前がありました。仙之助と尾上梅寿郎だけはお梅の恋心をしっかりと受け止めていたのでした。

 いい幕切れ、本当の意味で。この後味のよさがあってやっとこさ救われた思いでした。

2001年10月16日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16