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銭ゲバ


■公開:1970年
■制作:近代放映、東宝(配給)
■監督:和田嘉訓
■脚本:小滝光郎、高畠久
■原作:ジョージ秋山
■撮影:安藤庄平
■美術:安部衛
■音楽:広瀬健次郎
■主演:唐十郎
備考:〜ズラ、といえば殿馬@ドカベンではなく銭ゲバだ!

ネタバレあります


 ジョージ秋山と言えば筆者にとっては「アシュラ」です。飢餓の世に生まれた子供、アシュラは「なんとかだギャ」という台詞回しもインパクトがあり、人喰いシーンがあまりにも残酷過ぎると言うことだったんですけど子供の筆者から見て、そう?っていう感じでむしろそこで必死に生きぬいているアシュラの姿には、幼心に妙に共感した記憶があります。

 静岡出身の蒲郡風太郎・唐十郎は醜い風采ゆえに、みんなからバケモノ呼ばわりされます。実家は赤貧で、少年時代の風太郎・雷門ケン坊には友達も出来ず、みんなに容姿や家庭の事情を蔑まれた思い出しかありません。母・稲野和子は病弱(最後は医者に「金もってこい」と言われてロクな手当てもされずに病死)、父・加藤武は酒癖も女ぐせも悪く、風太郎少年はそんな父親を殺そうとしたこともありました。

 風太郎は金のために母を亡くしたことがトラウマになり金(銭)のためなら人殺しも全然平気な大人になりました。世話になったたった一人の知り合いも、わずかな金のために撲殺します。東京に出てきた風太郎は大企業の社長、兄丸秀吉・曽我廼家明蝶の車に体当たりしてまんまと屋敷に住み込みの下男として潜り込みます。

 兄丸家のお抱え運転手、新星・岸田森は、末娘の兄丸正美・横山リエと結婚して重役の椅子を狙うつもりでした。風太郎は新星を殺して庭に埋めます。行方不明になった新星の代わりに正美と結婚した風太郎は、障害のある正美に対して急に冷たくなります。風太郎が兄丸社長を絞殺した夜、偶然、凶器を手に入れた父親が強請に現れますが、風太郎は美人局をやっていたチンピラ・左とん平を雇って父親を射殺します。

 風太郎は正美の姉で高飛車な長女、三枝子・緑魔子を犯します。とうとう正美は自殺してしまいました。風太郎の前に刑事・信欣三が現れて過去の犯罪を暴き出します。風太郎は三枝子との間に出来た自分そっくりの醜い赤ん坊を殺し、とうとう三枝子も殺してしまいました。

 手に触れたものをすべて金に変えてしまうマイダス王のように、風太郎は欲しいものを次々と手に入れては失っていきます。手に入れながらも、手に入れられない、結局すべてを失った風太郎は、おそらくは生まれてはじめて「悲しさ」故に号泣するのでした。

 お蔵入り寸前で放送された円谷プロダクション制作のテレビドラマ「恐怖劇場アンバランス」のエピソード「仮面の墓場」と比較すると本作品の唐十郎のケレン味は全然ニュートラルだと言えます。しかしながら昨今、ラリパッパになって世間を騒がせた女優の息子が何ら社会奉仕をせずに平然と人様の前にカムバックするのを助けているようなふざけたオヤジとは別人ではないかと思えるほど、鮮烈でキワモノで、栄養の悪い子供だったわりにはイイ体してんな、やっぱ主たる財源は土方なんだろうな、ってな感じのアングラパワーはほとばしってます。

 上流階級のお嬢さんという役どころに緑魔子ってどうなることかとハラハラしました。おまけに妹は大映で頭の弱い淫乱娘みたいのが定番だった横山リエ、なんという濃い姉妹でしょう。お父さんが曾我廼家明蝶、というのはまだしも、ここん家の運転手は岸田森です。「アダムスファミリー」だってここよりかはもうちょっとマシではないでしょうか。

 日本映画の業界がこぞって非テレビ、というより不テレビ、つまり「テレビで出来ない(やっちゃイケナイ)ことをやれ!」を低予算でやりまくり東映カラーに日本列島が染め抜かれていたこの頃(ってそんなたいそうな)。東宝も例外ではなかったのですが「出所祝い」「高校生無頼控え」「子連れ狼」などのキワモノ作品(東宝から見れば)の数々をいずれも外部制作でなんとか面子を保ちました。

 1970年「続社長学ABC」でついに「サラリーマンシリーズ」が終焉した東宝。本作品には東宝生え抜き最後の好漢、藤木悠が曾我廼家明蝶の部下という役どころでただ一人良心の塊のようなキャラクターを演じぬきました。思いっきり浮いてた藤木悠の姿に「家族で楽しむ東宝映画」もついに終わりなのかと思いましたが、どっこい、終焉を迎えたのはエログロナンセンス&バイオレンス路線のほうだったんですね。

 「千と千尋の神隠し」が観客動員の新記録を打ち立てた21世紀の幕開けの今年、最後に笑う者はやはり東宝だったのかと改めて思い知らされた次第です。

2001年10月02日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-06-15