毒婦高橋お伝 |
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■公開:1958年 ネタバレあります |
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高橋お伝は実在の人物です。明治12年日本で最後に斬首刑になった人物でもあります。彼女の首をはねたのは執行人は、「首切り浅右衛門」こと八代目・山田浅右衛門でした。「お伝」モノといえば「明治大正昭和 猟奇女犯罪史」(1969年東映、石井輝男監督、由美てる子、土方巽)や「毒婦お伝と首斬り浅」(1977年、東映、牧口雄二・監督、東てる美、伊吹吾郎)というようにスキャンダラスでキワモノというわけですが、事実のほうがアレなだけに仕方ないとは思います。 でも死んだ人のこと、あんまり悪く言うのってヤじゃないですか。本物の罪人であってもね。それに昔の話だからいいかげんな記録も事実みたいにまかり通ってるかもしれないし、第一、相手はもう言い訳できないんですし。 道楽亭主の陣十郎・中村彰に愛想を尽かし一人娘を残して家出した高橋お伝・若杉嘉津子は今ではスリや万引きの常習犯として、肺病病みの亭主、浪之助・松本朝夫の世話をしています。ヴァンプはお色気を武器に巧みに警官をたらしこんで罪を逃れたりするのも全然平気なお伝なので、浪之助は嫉妬にかられて大暴れ。なので最近のお伝はちょっとブルーでした。 お目こぼし目的に別宅で関係した警邏の和馬・明智十三郎をマジで好きになってしまったお伝でしたが、浪之助はすぐに感づいてまたまた暴れるのでした。ある日、表向きは宝石商、裏では人身売買をしていた大沢伊兵衛・丹波哲郎に万引きの証拠をつかまれてしまったお伝は伊兵衛に手込めにされた挙句にビジネスのパートナーとしてスカウトされてしまいました。 伊兵衛の手下、長虫の市三・芝田新は浪之助を湯治場へ案内すると見せかけて殺してしまいます。次々と男を乗り換え、金のためなら若い娘を平気でだまして売り飛ばすお伝ですが、一人娘のことになるととたんに情にもろいお母さんになってしまいます。陣十郎はお伝をだまして金をまきあげて全部飲んでしまったので、娘はとうとう死んでしまいました。 横浜で伊兵衛とともに商売を再開したお伝のところへ、和馬がやって来ます。和馬は婚約者の梢・山田美奈子や先輩の倉田格之助・舟橋元の説得に応じずお伝恋しさに辞職して落ちぶれたのです。お伝は賭場で出会った元亭主の陣十郎をそそのかして伊兵衛を殺させようとしましたが返り討ちにあいます。お伝は伊兵衛を安心させておいて彼を撃ちます。瀕死の伊兵衛に追われたお伝は彼を階段から突き落としてトドメをさします。 和馬とともにお伝を追っていた倉田たちも駈けつけてお伝は遂に捕らえられました。 ダマされた娘たちの中に梢の姿を見とめたお伝が、和馬に向かって「あんたなんか大っ嫌い!私が好きなのはお金だけよ!」と絶叫するところが泣かせます。そして二度と会えないとわかっている和馬もお伝を忘れられず、お伝も縄付きのまま列車の中で切なく外を見ているのでした。 お伝を単なる悪女にしないで、情の濃い純情な一面もあって、切迫した境遇ゆえの数々の犯罪であるという心優しい解釈です。若杉嘉津子が心酔している中川監督の作品であり「一生のうち来るかどうかの大役」と言っているくらい熱中しているのが素晴らしいです。若杉嘉津子という女優さんは役にのめりこむタイプだったそうで「怪談・累が淵」では共演の北沢典子が「控え室の若杉さんの目が恐い」と本当に言ったそうですから、見ているほうとしては本当にうれしい人ですね。我を忘れてその役に没頭してくれる、自分の個性がどうのじゃなくて役と一体化してしまう。こういうのを女優魂って言うんですね。 そんな主演女優の頑張りに応えるように爬虫類的魅力炸裂な丹波哲郎、あいかわらず台詞は少ないですが、最後の死に様は、中川信夫監督の「地獄」で鉄砲階段の下で死んだ芸者の死に顔にそっくりで不気味で怪奇趣味満点。伊兵衛がお伝のほっぺたを張り倒すところでは本気でぶっ飛ばしたそうです。撮影後、文句言った若杉嘉津子に「痛かったか?ごめんよ、わっはっは」で許されちゃうんですから、それで撮影終わったら若杉さんをスクーターの後ろに乗っけて送ってやったりしたそうで、ホントにこの頃から大人物だったんですね丹波さんは。 男にダマされて人生転落のジェットコースターに乗った「毒蛇のお蘭」とは違い、こっちは自己都合で犯罪に走ってるわけですから情状酌量の余地は少ないでしょうけど、人間をとことん醜く描くだけなら誰でもできる。そこに一片の救いを見出すところが中川監督の腕であり妙味です。 (2001年09月24日) 【追記】
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※本文中敬称略 |
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file updated : 2003-06-15