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花の白虎隊


■公開:1954年
■制作:大映京都
■監督:田坂勝彦
■脚本:八尋不二
■原作:
■撮影:牧田行正
■美術:太田誠一
■音楽:渡辺浦人
■主演:市川雷蔵
備考:主題歌は古賀政男の作曲で霧島昇が歌う。監督は田坂具隆の実弟で新人。

ネタバレあります


 時代は幕末。会津藩は最後の幕府軍として官軍の集中攻撃に見まわれています。藩士の子弟を教育してきた藩校もついに最後の授業となりました。生徒たちが戦士として戦場へ駆り出されることになったからです。

 篠原準之助・市川雷蔵は名門の家柄で、秀才の学友、池上仙吉・花柳武始の妹、百合・峯幸子と婚約していました。仙吉も町の鐘楼番の娘、おさよ・小町瑠美子と恋仲でした。準之助の親友、小林八十次郎・勝新太郎は病弱の父親・小川虎之助の面倒をよくみる孝行息子です。

 若者たちは白虎隊、ヴェテランは玄武隊と呼ばれます。戦闘が長引いていた会津藩にはもうジーさんとガキしか残ってなかったんですね、男は。まるで大戦末期の帝国陸軍みたいですね。白虎隊は大活躍しますが物量に勝る官軍にはやはり歯が立たず、ついに飯盛山に追い詰められてしまいます。

 市川雷蔵は関西歌舞伎、勝新太郎は長唄、花柳武始は新派の名女形だった花柳章太郎の息子。それぞれ異業種から参入した若手俳優のデビュー作で、いきなり全滅、しかも全員自決というのはいかがなものか?と思いませんかね普通。映画で死んどくと長生きするって言うことでしょうかね?にしても、当ってないじゃん、ジンクス。

 すでに主役然とした市川雷蔵、脇に置かれても欧州留学を夢見る軟派なインテリと言うお得な役どころを与えられた花柳武始に比べると、色気ゼロでどちらかというとお笑い系の泥臭い役回りなうえに見せ場の切腹シーンまで割愛された勝新太郎はかなり割食った印象です。これが後のヴァイタリティーに結実するとしたらそれはそれで結果オーライというところかもしれませんが。当時の勝新太郎の心情を察してあまりあるところです。

 アイドル映画のノリで顔見世メインの平たいカジュアルな雰囲気の画面の中にあって、太平の世に延々と形骸化した武家のプライドを体現した大姑・毛利菊枝とその嫁・入江たか子の存在は、映画全体に風格を与えて大変に立派でした。

 戦争なんだから当たり前なんでしょうが、官軍が女や歳よりを見境なく平然と撃ち殺してしまうシーンは、小川虎之助の「武士らしく堂々と勝負したかった」という今際の際の台詞を聞くまでもなく、ちょっと驚きました。子供だけは殺すなよなーいくら史実でもこれは映画なんだからよー、と思っていたら、最後に鼓笛隊の少年だけは助けて欲しいと準之助が薩長軍の司令官・黒川弥太郎に頼んでいたのでホッとしました。これでもしあの子供まで死んでたらこの映画は悲劇映画じゃなくて、陰惨な残酷映画になっちゃいますからねえ。

 大好きなフランス語の書物を胸に切腹する若者、子供を戦地へ送り出してさめざめと泣く年老いた母。学徒動員、特攻隊、少年兵といった大戦の記憶がレアな時代ならではの演出も随所に見受けられます。

 メインの三人のほか、この作品では仙吉と喧嘩して最後に和解する熱血漢という役どころで高倉一郎がデビューしています。彼らの先生で最後に教え子を助けようとして爆死する先生役に長身の二枚目だった三田隆、会津藩の重役に荒木忍、準之助の家の下男で百合を守って死んでしまう役に伊達三郎、勇猛な会津藩の精鋭役には「まらそん侍」で勝新太郎と共演する千葉登四男、みんな若いです。

2001年09月07日

【追記】

 

※本文中敬称略


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file updated : 2003-06-15