有りがたうさん |
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■公開:1936年 ■制作:松竹キネマ(松竹大船) ■監督:清水宏 ■脚本:清水宏(脚色) ■原作:川端康成 ■撮影:青木勇 ■美術: ■音楽:篠田謹治(編曲) ■主演:上原謙 ■備考:原作は原稿用紙5枚の小編。 ネタバレあります |
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日本映画史上、たぶん最ものんびりとしたオールロケーションで上原謙が本当にバスを運転しちゃうロードムーヴィー。 田舎の定期バスの運転手・上原謙は街道を通りすぎる人たちに「ありがとー」と声をかけるので「ありがとうさん」と呼ばれています。今日のお客は東京に売られていく娘・築地まゆみとその母親・二葉かほる、流れ者の酌婦・桑野通子、ヒゲ面の紳士・石山隆嗣、ゴールドラッシュで財産食い潰した紳士・如月輝夫。 悠然と道の真中を歩いている人たちから察するにこの田舎にはめったに車なんか通らないのでしょう。色んな人がバスとすれ違いますが、世相は不況の真っ最中なので、男はルンペン、女は家のために自分を売らないと生きていけないような時代です。 恋人と無理やり引き離されて脳みそがクラッシュして街道をうろつく男、過酷な土木作業に借り出された朝鮮人の娘は現場で死んだ父親の墓の世話を頼んで去って行きました。そういう人たちを毎日お客に乗せたり、ただ見ているしかない上原謙は「いっそ霊柩車の運転手にでもなりたいくらいだ」とぼやくのです。 上原謙はもうすぐ独立して自分で車を持って商売するんだと張りきっています。しかし売られていく娘のことが気になってしようがない上原謙はルームミラーでちらちらと娘を見ているうちにバスもろともあやうく谷底へ落っこちそうになりますが「いやあとんだ軽業をお見せしちゃいました」と笑って済ませます。二枚目ってトクですね。 さていよいよ終点が近づきます。上原謙に気がありそうな娘は泣くばかりです。ちょいと性悪そうな桑野通子が「ボンネットバスのセコハン一台買うくらいならあの娘を助けてあげられるのにねー」と一言残して去って行くのでした。 主人公の運転手は村の娘っ子たちのアイドルなので、町へ行くときには蓄音機の種板買ってきてくれとか頼まれてもイヤな顔ひとつしないで引き受けます。売られていく娘は、偶然顔見知りに出会ってしまいます。相手は事情を知らないので「どちらへ行くのですか?」と尋ねます。相手の娘は東京へ嫁に行くのではしゃいでいます。浮かれていると他人の都合なんか目に入らなくなるものです。悪気がなくても思いっきり他人様を傷つける場合がある、そのへん上手いところ突いてくるんで、娘はますます落ちこみます。 古い日本映画に残っている風景はただのドキュメンタリーではなく、監督の美意識で最も美しい状態で切り取られているのですから、それらを見れるだけでも価値があると言うものです。 清水宏は性格も女ぐせも悪かったそうですが、完成からすでに60年以上たっているというのに全く瑞々しさを失わない画面を見ている限りとてもそんな風には思えません。城戸四郎の著作によれば「清水宏の演出は役者の芝居にたよらずストーリーから生まれる画面を想像して、その画面から逆にストーリーを表現しようとした。」とあります。「按摩と女」といい本作品と言い実に的を得た批評だと思いました。 主演の上原謙は何をいまさらですが日本映画史上、最高の二枚目俳優で加山雄三のお父さんです。ハッキリ言いますが加山雄三の数千倍カッコイイですよ、なんせ自分が二枚目だと言う自覚がほとんど感じられませんから。映画を仕切る桑野通子は、森永製菓のキャンギャル出身でフロアダンサーからスカウトされて女優になった人で、「青春残酷物語」の桑野みゆきのお母さんですが、1945年に急逝しています。 ラストはとびっきりのハッピーエンド、素敵な映画です。 (2001年09月02日) 【追記】
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※本文中敬称略 |
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file updated : 2003-06-13