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恐怖のカービン銃


■公開:1954年

■制作:蟻企画、新東宝

■企画:

■監督:田口哲

■助監:

■脚本:浅野辰雄

■原作:

■撮影:

■美術:

■音楽:

■主演:天知茂

■備考:

ネタバレあります


 天知茂の主演デビュー作。

 天知茂はホイホイとスタアダムにのし上がってきたわけではない。そらまーあの陰鬱な顔見てれば分かるっしょ、って感じだが、デビュー後はしばらく悪役というか敵役が続いていたのである。

 この映画は、1954年に元保安庁(現防衛庁)職員で保釈中だった大津健一がカービン銃(自動小銃)で武装して仲間と一緒に公金を強奪、その後仲間割れを起こして愛人とともに逃避行、海外逃亡寸前で逮捕され過去の殺人事件とともに断罪され一度は死刑判決を受けるも裁判で無期懲役になったという、事実のほうも相当にキワモノ度が高い事件がベースになっている。

 この映画の制作当時は「カービン銃ギャング事件」は続行中、8月の公開は、主犯逮捕から間も無い頃だったろうから、こりゃまさに「お父さんのためのワイドショー講座・劇場版」だ。

 第五福竜丸事件が起きたこの年。好調だった自動車販売業界も落ち目になり、元保安庁職員と言う肩書きを持つインテリで、見栄っ張りゆえに同業者から「宮様」と呼ばれていた、デイーラーの大津健一・天知茂は仲間3人とともに古巣である保安庁の経理課長・児玉一郎をインチキな不動産セールスでおびき出し、金がありそうだと確信すると後を付け回し、カービン銃で脅して課長夫妻を誘拐する。

 大津は空家の押入れに夫妻を監禁。愛人の美佐保・三原葉子に手伝わせて妻を人質に課長を脅迫。研究所の金庫から多額の小切手を強奪しようと、課長を連れ出した大津だったが、換金するために向かった、有楽町駅の近所で現在は千代田線日比谷駅のほぼ真上にある三信ビルで課長に逃げられてしまう。

 警察署へかけ込んだ課長の通報で大津は仲間と愛人を連れて逃亡生活に入る。しかし現金を目の前にした3人は、いちいち偉そうで「右翼の活動資金になる」とか「堕落した日本を救うための金だ」とかなんとか言ってごっそりと上前をはねる大津に対して不信感を抱き始めていた。

 金の亡者には金をやるのが一番だと、良いところに気がついた大津は、愛用のカービン銃でさらなる強奪事件を起こそうとするが失敗。人間不信のためいつも現金を肌身はなさずいた大津は、仲間に裏切られた上に現金のほとんどを奪われてトンズラされる。

 そうこうしているうちに、所詮、悪銭身につかずで、逃げた仲間は次々に逮捕されたり自首したりで、愛人と一緒に逃避行していた大津もとうとう逮捕されたのだった。

 仲間が逮捕されるシーンはロケに集まった見物人の群に「なに?なにかあったの?」とか「逮捕されたらしいわよ!」といういかにも不安げなアテレコをハメて本物らしく見せる。犯人が逮捕された本物のニュース映像を使用しアップのシーンだけ天知茂で撮影しておいて音声は当時の現場の野次怒号を使用するなど、実写と追加撮影分とをうまく繋いでそれらしく見せるための工夫がいっぱいあって、出演者のほとんどが無名な人ばかりなのでナカナカの迫力だ。

 これって映画っつーより、とてもよくできた「再現映像」なんですな。

 映画作品としてどうよ?って言われりゃーちょっとどうしようもないんじゃないの?と思うのだが、そんな周囲を他所にただ一人、初の主役に(そうでなくてもいつもだが)大変な集中力を発揮している天知茂は、彼の周囲にだけ漂うコスモを形成していて入れこみ度の高さを物語る。て言うかすっかり周囲から浮いているので、当時の時世からしたらかなり特異な「大津」というキャラクターを本人以上に「それらしく」造形しているところが素晴らしい。結果的にかもしれないが、とにかく鮮烈な主役デビューであったことには違いない。

 しかしこの「キワモノ」キャラクターの大成功で、天知茂はしばらくの間「悪役」街道まっしぐらになってしまうのだから運命って皮肉ね。この後、天知茂の初の善玉役は、前田通子主演の「女真珠王の復讐」で、天知茂は「初めて善人の役をやった、思い入れのある作品です」と前田通子に語った。そりゃねー二枚目だし、俳優業に命かけてた人でしょ?悪役ばっかじゃ浮かばれないと思うもんね。

 ドキュメンタリーっぽく、ナレーションは新聞記者役で出演もしている近藤宏が担当。

2001年07月08日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-06-10