「日本映画の感想文」のトップページへ

「サイトマップ」へ


悪名


■公開:1961年
■制作:大映
■監督:田中徳三
■助監:
■脚本:依田義賢
■原作:今東光
■撮影:
■美術:
■音楽:
■主演:勝新太郎
■備考:


 朝吉・勝新太郎は河内の八尾では知られた暴れン坊。ある日、色っぽい人妻のお千代・中田康子とかけおちした朝吉は、温泉芸者が板についてしまったお千代と別れて一人、松島へ遊びに行ってしまう。そこの遊郭で琴糸・水谷良重と知り合った朝吉は彼女を足抜けさせたことで、地元ヤクザの吉岡組に追われるハメに。

 吉岡組にいた若い衆、モートルの貞・田宮二郎は朝吉と対戦して負けたので朝吉をアニキと慕うようになる。琴糸のいた遊郭を縄張にしている松島一家の子分・須賀不二男が朝吉を探しに来て吉岡組の親分、吉岡・山茶花究を半殺しにした。

 松島一家に目をつけられた朝吉と貞は、琴糸を匿ってくれた家の娘、お絹・中村玉緒とお照・藤原礼子がバイトしていた牛肉屋で、朝吉に会いたくて吉岡の家に戻ってしまった松島の子分たちに捕まって因島に売られたらしいと知る。貞と一緒に島に乗り込んだ朝吉は、琴糸を見つけ出して連れ去る。

 因島は色町をたばねるシルクハットの親分・永田靖と、女親分のイト・浪花千栄子に仕切られていた。イトの仲立ちで琴糸と一緒に島を離れた朝吉は、琴糸を逃がして一人で島へ戻り、イトの折檻を受けたが少しも根を上げなかったのでイトは朝吉たちを許してやった。

 朝吉はお絹と夫婦の約束をさせられてしまうのだが、そのとき「一生夫婦でいます」なーんて誓詞をとられてしまうシーンはなかなかに微笑ましくてよろしい、当時、この二人は実生活で婚約中だったのである。

 映画「悪名」シリーズは河内を「ガラの悪いところ」として全国区にしてしまった功罪相半ばする作品なのである。事実、かの地で住職をしていた原作者の今東光に対するジモティーの評価はまちまち、らしい。

 勝新太郎と市川雷蔵は今でこそ並び賞されているが、「花の白虎隊」で一緒にデビューした後、当時、大スタアとして君臨していた長谷川一夫の後継者と目され痩身の美形である雷蔵がすくすくと育っていたのに対して、濃いめのデブだった勝新太郎は化け猫映画などでテキトーに活躍していたのである。

 本作品は大映としても勝新太郎を売り出すための一種のバクチとして打ち出された企画だったが、長身の田宮二郎とのカップルは見事に「デブとノッポ」という喜劇の王道コンビとして成立し、興行も大成功を収めた。

 強きをくじき、弱きを助ける、典型的な日本ガキ大将。この映画は昔話に出てくる「金太郎」そのもの。つまりアンチヒーローふうでありながらちゃんと普遍的なヒーローであるところが時代を超越した面白さの所以だろう。

 それともう一つは、朝吉のような真正直な好人物は、一般社会からドロップアウトしなければ生きにくいというのもまた事実なので、うんと笑った後にそこはかとない寂寥感が残る。

 あ、モートルって「モーター」という意味だよ。つまり貞はモーターみたいに馬力があるってことね。田宮二郎の一途さと馬力がコミカルに結実したキャラクターがこのモートルの貞なわけ。このセンはその後の「犬シリーズ」に受け継がれていく。

 悪名シリーズにおける彼は誰がどう見ても二枚目が演じる三枚目な役どころ、クサミがなくてこれが実に良かった。

 ほかに、頑固さではセガレ以上の爆発系オヤジに荒木忍、朝吉に味方してくれる宿の女将には東映から移籍した上品な美人女優の阿井美千子、シルクハットの子分に「まらそん侍」で勝新太郎のクラスメートを演じた偉丈夫の千葉敏郎らが出ている。

2001年04月26日

【追記】

※本文中敬称略


このページのてっぺんへ

■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-06-08