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情無用の罠


■公開:1961年
■制作:東宝
■監督:福田純
■助監:
■脚本:須崎勝弥
■原作:飛鳥高
■撮影:
■美術:
■音楽:
■主演:佐藤允
■備考:


 原作は飛鳥高の「死を運ぶトラック」。ちなみに本作品は古沢憲吾監督の「青い夜霧の挑戦状」と同時進行、なので出演者はほぼ同じ。

 三郎・佐藤允は前科者だったが土建屋の社長、森島・平田昭彦(様)のもとで無事更正している。ある晩、殺された女の死体のそばに落ちていたダンプのミニカーから三郎の指紋が採取されたので、刑事の井崎・中谷一郎は三郎を追求する。

 そのミニカーは、事件のあった夜、三郎が一緒にホテルに行った女・水野久美にプレゼントしたもので、死体の女は別人だった。三郎は井崎と一緒に女を探す。やっと見つけた女は正子・水野久美と名乗り三郎のアリバイを否定する。

 正子にはカリエスで寝たきりの夫・草川直也がいた。殺された女が大手商社の常務、土方・中丸忠雄の妾であるとわかり、事件は官僚の汚職事件へと発展する。なにかと三郎の世話をしてくれていた森島は土方に取り入るために殺し屋の白水・田中邦衛を使って妾の殺害をうけおい、その罪を三郎に着せようとしていたのだった。

 真相が暴かれるのをおそれた森島は白水に正子を見張らせ、三郎を殺そうとする。正子は服毒自殺をした夫の後を追おうとしたがその前に三郎に事件の黒幕が森島であることを告げ、白水が運転する車にわざと轢かれて死ぬ。

 森島を追い詰めた三郎は車庫で重油まみれになって、かけつけた井崎とともに白水と格闘、ついに彼らを逮捕する。

 この映画はツカミがいい。いきなり女の死体が出てその後のストーリーのキーアイテムがぱっと映ってタイトルが出る。リズムとテンポが軽快で心地よい。

 延々と続く万年塀はいかにも殺人事件の一つも起きそう、暗くて狭いどぶ川(仙川周辺在住の皆様、ごめんなさい)はムードあるなあ、窓の少ない倉庫でのアクション、あーやっぱ男性アクション映画ってのはこうでなくちゃ!って言うかコレってほとんど東宝の撮影所から出てないような気がするなあ、倉庫っぽいのってステージでしょ?と思っていたら福田純監督のインタビュー本「東宝映画100発100中 映画監督・福田純」(ワイズ出版)によりそれが真実だと判明した。

 ついでだが「電送人間」で中丸忠雄が白川由美を抱えてウロウロしてたのも、追い詰められて電柱よじのぼったのもこのあたりなので、つまり福田監督に限ってないかもしれないけどB級アクション映画って本当に金なかったのね。だから「B級」なんですが。

 何遍も主張するけど、低予算かならずしも駄作にならず、だよ。ただし「金がなくてもいい作品はできる!」ってのは正しくない。もっと面白くなる可能性をどこかで捨ててるわけだから。そういうのが美談になっちゃうところが日本映画の難なところだ、と愚痴の一つも出ちゃうんだよね、こういう貧乏で面白いの見ちゃうとさ。

 きちんと原作がある映画はしゃんとしているもので、本作品も単なるドンパチ系のアクションだけでなく、前科者ゆえに利用され冤罪被害者になりうる現実や、生活のために体を売って生きなければならない実態が織り込まれていて社会派ドラマの味わいもあって骨の太い仕上がりだ。

 もちろんアクションにも見所あり。ラスト、森島土建の車庫で繰り広げられる、重油まみれの取っ組み合いも「女殺油地獄」まんまで、滑りまくる床に足を取られてほとんど立ってらんないような状況の中、役者の息遣いが聞えてきて迫力万点。こりゃ凄いの一言だ。

 「若大将シリーズ」や「北の国から」しか知らない人はこの映画の田中邦衛を見たら唖然とするかも。不健康で粗暴、こういうキレたキャラクターやらせたら、ひょっとして天本英世と双璧だったのがこの頃の田中邦衛だ。

 それと、およそ他の映画では色っぽい役どころが圧倒的に多い浜美枝が、色気のかけらもない昼間の水商売女として出てくるところも面白い。性格ブスで化粧気のない浜美枝、これはその筋のファンには必見(か?)。

 他に佐藤允をハメる昔の仲間に、「ウルトラQ」の西条康彦、洗濯屋のにーちゃんに二瓶正也、東宝ファンにはおなじみのいつもの面子がいつもどおりに出てくる。

2001年05月05日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-06-08