奴が殺人者だ |
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■公開:1958年 |
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麻薬の密売人2名が連続して殺された。警視庁の部長刑事、大利根・土屋嘉男は部下の鈴木刑事・中丸忠雄と一緒に周辺の聞き込み調査を開始するが、およそこういう事件の関係者は警察が嫌いな人ばかりということもあってなかなかはかどらない。 やっと心を許してくれた被害者の内縁の妻・中田康子によると通称「ゆーさん」という男が真相究明の鍵らしい。大利根は「ゆーさん」こと湯本・伊藤久哉を探し始める。 厚生省麻薬取締官の石原・佐藤允は警視庁に派遣され麻薬密売組織に「直さん」と名乗って潜入捜査中。表向きは堅気の会社だが裏では麻薬で大もうけの社長、沢田・山茶花究は湯本を抹殺するために殺し屋の竜・天本英世を直と組ませる。竜は薬物中毒患者で、殺し屋稼業も薬物を手に入れるためだった。 竜にあやしまれつつも湯本の所在を突き止めた直は、大利根に連絡する。高飛び寸前の湯本が羽田空港にいるらしい。沢田は竜と直を乗せて羽田空港へ向かう。 天本英世に友情を感じてしまう佐藤允がいい味。 直、こと石原は当然、婚約者にも秘密で捜査してるわけだが、この婚約者・横山道代と、湯本の婚約者・峯京子が親友でお互いに訪れる運命の明暗を知らずに嬉々として将来を語り合うシーンが印象的。麻薬犯罪がいかに密かにそして確実に人の幸福を破壊するかという悲劇性と物語全体の厚みがきちんと出ている。 ただ正直なところ、全体に淡白な作りなのは否めないのでせっかくのサイドストーリーがオマケみないな感じになっちゃったのは残念なところだが、ラスト、何も知らない佐藤允と横山道代が峯京子に電話をかけるところは秀逸。むやみに明るい雑踏の中でその電話ボックスだけがぽっかりと異空間に見えて、犯罪というものが実は日常の何気なところで起きている、そういう実感があった。 まだあまり大きな役をやったことがなかった中丸忠雄の、真面目でブッキラボーな演技は初々しくてグーだ。この後、悪の坂道を転げ落ちるように(役どころが)岡本喜八監督の「独立愚連隊」「暗黒街の対決」などを経て東宝映画史上最強の色敵に成長あそばすとは誰が予測できるだろう?そもそもその後のアレを知ってたら土屋嘉男のパシリやってる中丸忠雄なんて信じらんない。それにこの二人、電送人間とガス人間やるんだよ、2年後に。運命って皮肉ね(大袈裟)。 さて問題です。あなたは「薬物中毒になった天本英世によく似た人」に出くわしたらどうしますか?まず間違いなく筆者なら逃げますがいかがです?。天本さんゴメンナサイ、だってそれくらい本作品におけるあなたの「禁断症状」が、リアルかどうかの問題ではなく人間の恐怖中枢のツボを刺激するという意味で、素晴らしいってことです。自分で沢田をぶち殺しておいて錯乱し死体に取りすがって「ヤクくれよー沢田さーん」ってわめくところは、いまどきの青少年でも確実にひきますよ、絶対。 いかがですか?麻薬撲滅キャンペーンにこの映画はうってつけだと思いますよ。 NHKの「チロリン村とくるみの木」のテーマソング歌ってた放送劇団出身でその後、東宝映画の常連になる横山道代はこれが劇場公開用映画のデビュー作、すでに元気印が思う存分スパーク。 このほかに、山茶花究の妹に淡路恵子。桐野洋雄(吸血怪獣ケロニア)と加藤春哉はちんぴらコンビ、ちなみに加藤さんの役名は「チョンボ」である、わかりやすいといえばわかりやすい。 (2001年05月03日) 【追記】 |
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※本文中敬称略 |
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file updated : 2003-06-08