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出所祝い


■公開:1971年
■制作:東京映画、東宝
■監督:五社英雄
■助監:
■脚本:五社英雄、田坂啓
■原作:
■撮影:
■美術:
■音楽:
■主演:仲代達矢
■備考:なにかと目をむく主人公を見た安藤昇「感情が表に出るのは田舎やくざだ」と断言。


 1969年〜1970年頃、日本の映画業界がいっせいに東映になりかかった時期があった。本作品もその頃の一品、ゆえに時代の仇花のように思われてきたのだが、あらためて見なおしてみると、見ごたえ十分のスケールの大きい人間ドラマだった。

 歴史的事実も反映してドラマを「面」で組み立てていく、ここんところが地域紛争メインの「点」で捉えていく東映やくざ映画と大きく違うところであり、この作品がある意味「如何物」とされる所以だろう。

 大正天皇崩御、昭和天皇即位、短期間に行われた国家の二大イベントに翻弄されたやくざの物語である。

 対立する組の親分を出入りで殺し、特赦の恩恵で短期間に出所してしまった榎家の岩橋・仲代達矢、観音組の尾関・安藤昇らは、ほとぼりのさめない娑婆でひっそりと暮らしている。榎家の二代目組長には弟分の榊・夏八木勲がおさまっていた。岩橋は一緒に出所した舎弟の努・黒沢年男が組長の娘、綾・栗原小巻と相思相愛なのを知っていたが、綾は右翼の大物政治家、浅倉・丹波哲郎のとりもちで観音組の二代目組長、五十嵐・田中浩と政略結婚させられることになっていた。

 先代組長暗殺犯人が意外な人物だと知った岩橋は努と綾を尾関に預けて逃がそうとしたが、その尾関もかつての仲間に殺されてしまう。岩橋はやくざをわざと仲たがいさせて、仲裁を名目に多額の賄賂をとっている浅倉を追い詰めていく。

 組のために体を張った男が出所が早過ぎたために居場所を失い、あまつさえ、信じて跡目をまかせた弟分に思いっきり裏切られてブチ切れるというのはやくざ映画のセオリーであるが、演じているのが新劇系の仲代達矢であるから、その情念の濃さが男気云々というより怨霊化してしまうところが凄い。

 五社は知能犯の敵役に自作「牙狼之助」でデビューさせた史上最高のむさっくるしい新人俳優・夏八木勲を起用、仲代達矢相手じゃあ貫禄出ないからって?描きヒゲをつけて大熱演させ、もう一人の敵役、田中浩の愛くるしいボケとナイスコンビネーションを実現。

 やくざを食い物にしていた悪徳政治家、ついに絶命か!?新東宝時代ならいざ知らず、すでに大物になってるこの頃の丹波哲郎でまともに死ぬ役ってのは珍しいよなあ、と見せて最後の大どんでん返しには笑かせてもらいました。

 岩橋と偶然に知り合う女彫もの師、お夕・江波杏子の元亭主でいかさま賭博師兼殺し屋に天本英世。若大将シリーズそのままに実年齢では仲代達矢とタメ年ながらぐっと若く見える田中邦衛が事件の真相を知る重要な役どころで出演する。

 パラソルさした二人の女殺し屋、お妻・新高恵子とお滝・愛樹ルミのカルトな殺しのテクニックも見もの。

2001年04月01日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-06-07