獣の宿

■公開：1951年
■制作：松竹
■監督：大曾根辰夫
■助監：
■脚本：黒澤明
■原作：藤原審爾
■撮影：
■美術：
■音楽：
■主演：志村喬
■備考：

　若い頃の鶴田浩二には撮影をすっぽかしたり、ヤクザに襲撃されたりと、無責任で無軌道なエピソードがある。このようなワケで鶴田はアプレゲール・スタアと呼ばれていたのだが、東映に入ってからは一転してアバンゲールに変身する。本作品の頃は、松竹入りに尽力してくれた大曾根監督の手の内で、その甘いマスクと抜群の不良性感度を発揮している。

　元やくざの弥造・志村喬は孫娘の由紀・岸恵子には過去を明かさず、二人で湖畔のホテルを切り盛りしている。そこへ、殺し屋の健・鶴田浩二という男が転がり込んでくる。弥造の昔の親分で今は町の有力者になっている人物の命令で倉庫を襲撃した健の身柄を匿って欲しいというのだ。健は逃げる途中で、弥造の知り合いの花売りの老婆・毛利菊枝をひき逃げしていた。

　年頃の娘を抱えた弥造としては、自分の過去をバラすと脅す健の言いなり。健の傍若無人なふるまいに怒った由紀は、彼を問い詰めてとうとう弥造の過去を知ってしまう。

　自殺した健の弟分の恋人が湖に身投げをしたので、ホテルに警視庁の警部・清水将夫と、キャバレーのマネージャー・有島一郎がやって来る。しかし警部はさっさと帰ってしまう。花売りの老婆の家に行った健が由紀を犯したと勘違いした弥造は、湖上のボートで健を射殺した。弥蔵は面倒見のよい駐在・藤原釜足のところへ自首する。

　若い娘の一途な正義感と好奇心は往々にして事態を深刻な方向へ誘導する。その娘を演じているのがほっぺたパンパンの岸恵子で、なるほどどえらく綺麗、かつ鼻っ柱が強そうだ。

　限定されたシチュエーションの中で主役三人を十分に取り扱う大曾根辰夫の演出はさすがに戦前からの監督らしく上手い。「羅生門」の翌年、演出家として本格大成する直前の黒澤明のストレートさがいい。

　鶴田浩二と岸恵子は、本作品が初共演。

（2001年03月19日）

【追記】

※本文中敬称略

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