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座頭市血煙り街道


■公開:1967年
■制作:大映
■監督:三隅研二
■助監:
■脚本:笠原良三
■原作:子母沢寛
■撮影:
■美術:
■音楽:
■主演:勝新太郎
■備考:戦後チャンバラスタアの頂上対決。


 素浪人と言えば三船敏郎だが、もう一人、日本映画ファンが絶対に忘れてはイケナイ素浪人俳優がいる、近衛十四郎である。筆者は日本映画史上、最高のチャンバラ俳優は近衛先生に決めている。

 座頭市シリーズで強力なライバル、いわゆる凄腕の浪人ってやつね、この役どころが斬られなかったのはほかに「座頭市と用心棒」くらいなのではないか?

 ツカミはいつもどおり後のライバル、赤塚多十郎・近衛十四郎と何気に出会う座頭市・勝新太郎だ。

 行き倒れの女から少年、良太を預かった座頭市は、彼の父親を訪ねて前原に向かう。やっと探し当てた瞼の父・伊藤孝雄はご禁制の絵皿を悪代官・小沢栄太郎に命じられて無理やり作らされていた。

 今回の脚色は、後に東宝で若大将シリーズを量産する笠原良三なので、ゲストの中尾ミエの歌も入って娯楽色が強い。この路線でまとめちゃうと座頭市サポーターから堕落という評価を頂戴するところだが、さすがは三隅研二、うまいことツボを押さえた演出だった。

 見どころは、イキナリ子連れになってしまう座頭市のかいがいしい父親ぶりと、チャンバラの王様・近衛十四郎先生との対決。

 座頭市が世話になったどさ回りの女座長・朝丘雪路の興行に因縁つけてきた田舎ヤクザの万造・田武謙三は、代官と結託している新興やくざの権造・小池朝雄の威光をカサにきていやがらせをするが、そこへ多十郎が現れてささーっとやっつけてくれた。

 代官のところから逃げ出した良太の父親、庄吉をおびき出すために、権造は庄吉の師匠で陶芸家・松村達雄を殺し、その娘、おみつ・高田美和と良太を誘拐した。助けに行った座頭市と庄吉は権造一家を皆殺しにした。

 多十郎の正体は公儀隠密、絵皿密造事件が地方公務員の代官だけでなく幕府の重臣からも逮捕者が出てしまうとわかったので、関係者を根こそぎ闇へ葬るつもりなのだった。

 座頭市としては武士の世界のゴタゴタに結果的に巻き込まれた良太の父ちゃんを多十郎に斬らせるのは絶対に食い止めたいところ。

 座頭市のめちゃ早い居合を正面で受けて払い、素早く後ろから来る二の太刀を背中で受けて押し返す!ここまでほんの数秒、勝新太郎も近衛先生もコマ落としなみの高速の殺陣。

 この二人の対決がちゃんとしているのは、子供がダシに使われていないからである。仕込み杖を残る隠密に投げて丸腰の座頭市を斬らない多十郎、それは何かのために身を投げ出した人間の気迫の勝利であり、同じ高レベルの武芸者である多十郎にはビビビッと共感できたわけ。

 強者のみに通い合う心、シビレルなーこれがプロフェッショナル・チャンバラの醍醐味なのさー。

 エンディングは可愛げのない良太少年と座頭市の涙の別れ、見えない目から流れる涙に泣けない奴は失格だ。大人になったら上手に泣くタイミングを心得ようね。

 コメディーリリーフは東宝のクレイジーキャッツ映画でいつも「いじめられ役」だった田武謙三、ここんところも笠原カラーだ。

2001年03月11日

【追記】

※本文中敬称略


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file updated : 2003-05-16