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関東無宿


■公開:1963年
■制作:日活
■監督:鈴木清順
■助監:
■脚本:八木保太郎
■原作:平林たい子
■撮影:
■美術:
■音楽:
■主演:小林旭
■備考:


 途方も無く老けた大学生をゾロゾロと出演させた東宝の「若大将シリーズ」も、本作品の中原早苗(当時28歳)に比べればまだまだだ。

 伊豆組の組長・殿山泰司には、優秀な代貸の鶴田(かくた)・小林旭がいた。ある日、興味本位で彫り物師を尋ねた組長の娘、トキ子・松原智恵子とクラスメートの市川松江・進千賀子、山田花子・中原早苗は帰り道、伊豆組と敵対している吉田組のダイヤモンドの冬・平田大三郎と出会う。冬は花子に一目ボレ、花子も積極的にモーションをかけるのであった。

 花子が伊豆組の鉄・野呂圭介によって女郎屋に売り飛ばされてしまったため、怒った冬が鉄を襲撃、吉田組の組長・安部徹も乗り出してきて一触即発のムードに。鶴田はしかたなく鉄といっしょに花子を捜索するが、なんと花子は伊豆組組長の愛人になってしまう。

 吉田組のチクリにあって賭場を潰された伊豆組のために、他の賭場に出稼ぎに行った鶴田はプライドを捨てて組のために地道に働くが、組長はどんな手段を使っても賭場を横取りしろと厳命。しかたなく鶴田はたまたまイチャモンを付けにきたヤクザを叩き斬って、騒ぎを起こした。

 頭に血が上った冬が伊豆組組長を射殺。刑務所に送られた鶴田はむなしい思いに包まれていた。

 俳優は化けるのが仕事であるが、中原早苗の女子高校生だけはSFである。どう見てもさかりのついた団地妻。役名は「山田花子」(笑)だし。

 この映画の前半はとにかく退屈だ。昔気質のヤクザがいて、了見の狭い親分がいて、娘を売り飛ばすチンピラがいて、その娘を買う女衒がいて、組のピンチに他所の賭場で大暴れ、、、うーむどこいらへんが鈴木清順してるんだろうかとジレてたら、パーンと倒れた障子の向こうは空に真っ赤なあかね雲、というかホリゾントに目の覚めるような紅色が一面に広がっていた。

 歌舞伎なら拍子木の一つもチョーンっと鳴らすところだろう。

 そう言えば、舞台となる築地あたりの風景もヘンだった。あの空の色も胡散臭かった、など思い出されてくる。義理人情のしがらみをどこか鼻で笑うようなところがあった。ヤクザ映画なのに、不思議なサブリミナル、その集大成がこの衝撃的なシーンだったってわけなのね。

 東映に行った後の小林旭は恰幅が良かったけど、まだこの頃はかなりスマート。そのせいもあるのかな?この映画の旭さんは、監督得意の様式美の中でやたらとニュートラル。そう、それって石井輝男監督の映画に出てるときの吉田輝雄みたいな感じ。ただし吉田輝雄ほど何も考えないでやってるようなある意味の素直さはないから、なんとなく馴染めてない。

 ここ日活では、鈴木清順監督の場合、清順ワールドまで辿り着いた「殺しの烙印」で自分が飛ばされてしまった。そして苦節ン十年、スタアシステムのしがらみもなにもかもぶっ飛ばして、好き勝手に鈴木コスモで炸裂したのが「ツィゴイネルワイゼン」や「陽炎座」。

 異なる宇宙を形成する旭さんに違和感があるのは当然なのかも。

2001年02月11日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16