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逃げだした縁談


■公開:1957年
■制作:松竹
■監督:穂積利昌
■助監:
■脚本:斎藤良輔
■原作:
■撮影:
■美術:
■音楽:
■主演:笠智衆
■備考:


 自分が生まれる前の世界を疑似体験したければ古い映画を観るに限る。

 日之丸自転車の販売係長、瀬戸口鉄造・笠智衆はたたき上げの営業マンで、脳溢血でリタイアした課長の後任と噂され本人もまんざらではない様子。

 鉄造は、会社の景品係をしている長男、正一・田浦正巳、大学生の次男、明夫・清川新吾、二十歳になる長女、昌代・杉田弘子、以上三人の子持ちで妻には先立たれているが、近所の飲み屋の女将、とよ・沢村貞子とはちょっといい感じだ。

 この凡庸な「おとうさん」の周囲に次々とそよ風のような事件が発生。

 お年頃の昌代は父親の後輩で宣伝係長の三上・高橋貞二にラブラブだが、社長のじゃじゃ馬娘・関千恵子が三上にモーレツアタック中。長男は美人OLのとみ江・小山明子という恋人がいるがこれまたさるスジの令嬢とお見合い話が進行中。次男はオヤジの大事な骨董品を質屋にブッ込んでトランペットを購入、オヤジはオヤジで自称発明家・三井弘次に多額の投資。正一の会社の社長・藤原釜足には気の強い二号さんが、、、。

 と、まあどれもこれもたいしたことないエピソードだが、問題なのはこういうささいな事がダマになって襲ってくることだ。

 おかげで、鉄造は鼻血出して脳溢血の発作を起こす。それがために会社も退職せざるを得なくなってしまうのだ。

 スンげー気の毒な鉄造であるが、家族や周囲はそれなりに「なんとかなるさ」と割り切ってるところが凄い。一応、退職金は奮発してもらえそうだが、現役バリバリを自慢していた本人とってはイキナリ「髪結いの亭主」生活が円満に行くとは思えないのだが、そこが笠智衆だとなんとなく納得できるから不思議である。

 時代のなせる業だろうが、倒れてなお、家族の将来を心配する父親に向かって「貧乏には慣れてるから平気よ」とはあまりな言いぐさなのでは?聞きようによっては「アンタの稼ぎなんかアテにしてないってば!」なのでは?

 が、そこで笠智衆。しみじみと「そーかー、そーゆー暮らしもイイかもなー」と柔和な笑顔で全部シャンシャン。松竹大船メロドラマの最終兵器の真骨頂をココに見た!

 筆者が期待して裏切られたことが一度もない俳優の一人が三井弘次である。本作品でもド派手な背広に爆発ヘアスタイル、ひと目で胡散臭いとわかる外見、鉄造の家の電気洗濯機を破壊し、鉄造から金を巻き上げてドロンする。発明していたのが「アフロをストレートにする薬」というまるで「オースティンパワーズ」にでも出てきそうなネタというのもグーだ。

 「ドクタースランプ」の元祖はこんなところに(いるわけない?)!

 のどか過ぎて眠くなりそうな映画だが、あと十年くらいすると生臭さがすっかり消えていい感じになるんじゃないだろうか。そのころになれば誰も、この映画の舞台が日本の東京だとわからなくなるだろうからね。

2001年01月20日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16