秦 始皇帝 |
|
■公開:1962年 |
|
1958年「日蓮と蒙古大襲来」1961年「釈迦」そして本作品の3本は日本映画がハリウッドにかぶれて作った超大作。 中国の戦国時代。疲弊する農民を見かねて立ち上がった一人の王族、秦王・勝新太郎は、世界で最初、最大の統一国家、秦を建国し自らを始皇と称した。最初はうまくいくかに見えた独裁国家だったが、大臣たちの不正や、荒唐無稽な公共事業のために費やされる莫大な労力のおかげで民衆の心は次第に始皇帝から離反していく。 幼少の頃の人質生活がトラウマになり、封建制度の急激な改革を断行、これがひいて旧友の王族、太子丹・宇津井健の怨みを買う。最愛の妻、朱貴児・山本富士子が北方の蛮族に殺されたのを深く悲しみ、万里の長城を血眼になって建設し、結局このあたりが決定的なダメージになって秦は滅びる。 なにせ顔がすでに十分スペクタクルしてるンだよ、勝新太郎は。 ライヴァルの宇津井健も凄い。周りがどんなに引こうとも全く眼中にないのはいつもの彼だが、畏れ多くも市川雷蔵をヒットマンとして派遣するほどの執念で始皇帝の命を狙いつづけ、最後は捨て身の特攻で返り討ち。しかも断末魔に大流血で高笑いという、ここまでキレた彼を見られるのは近作「催眠」くらいなものでは? あと、宇津井の乗馬技術にも注目してあげましょうね。たいていの俳優は我流馬術だが彼は気合の入ったブリティッシュスタイル、中国なのにブリティッシュ?ま、許せ。 オールスターってんだから顔出し程度まで入れると大変なキャスティングだぞ。始皇帝が慕う老兵・東野英治郎、老兵の倅で最後まで始皇帝に従った若者・本郷功次郎、始皇帝の生母・山田五十鈴、実父・河津清三郎、仙人みたいな占い師・中村鴈治郎、雷蔵の妻・中村玉緒、このほか、三津田健、佐々木孝丸、といった新劇のシブドコロもシッカと揃えて出るわ出るわの大盤振る舞い。 さて「釈迦」をパスした長谷川御大は?っつーと。 リベラル派の学者、于越・長谷川一夫と宮口精二、他多数は始皇帝に弾圧されて生き埋めにされるんだけど、実際の穴埋めシーンには御大の姿は無し。さすがは御大、理屈を超越した大スタアだねえ。 この映画の最大の見せ場は、大ロケーションのバトルシーンではない。若い学生・川崎敬三の友達で、国禁書を持っていた罪で長城建設にかり出されたばかりでなく、とんだとばっちりで人柱にされた川口浩の新妻・若尾文子だ。死んだ亭主のお骨と再会するために六角堂をビシバシ叩くと、な、なんと長城が瓦解し大地が真っ二つに裂けてしまうのであった。変わり果てた亭主の骨に自分の血を注ぐ若尾文子、スッゲ−!いつでも文子ちゃんは、可愛い顔してヤル事が大胆ね。 時代劇には金がかかる。しかも舞台が中国というのではたとえ現地の全面協力があるにせよ考えるだけで心が豊かになるほどの制作費と思われるわけで、当時の大映としてはンなのばっか連発していたおかげで潰れちまったわけだが、これが一応、馬鹿でかい映画としては打ち止めになったようだ。 筆者は時々、新しくなった大映の「敦煌」をボロクソに言うのだがその理由はこの映画を観ればわかる。現地ロケーションをありがたがるなんて時代錯誤も甚だしいし、西田敏行に勝新太郎の真似させるなんてご冗談でしょ?と思うワケ。 中国陸軍全面バックアップ、中国大陸から御殿場まで駆け巡ったまぎれもない本物の大作映画。 (2001年01月20日) 【追記】 2002年11月29日:[訂正]文中にある「中国陸軍」は「国府軍(台湾)」、ロケ地は中国大陸ではなく、台湾です。ご指摘いただきましてありがとうございました。 |
|
※本文中敬称略 |
|
file updated : 2003-05-16