乳母車 |
|
■公開:1956年 |
|
既婚女性が自分の亭主を見ていてもっとも表情が素敵だなと思うのは「子供と遊んでいるとき」だそうだ。実生活では子供はいなかった裕次郎の父親の顔が見れる。 筆者は石原裕次郎よりも旭さん(小林旭)のほーが好き!である、否、正確に言うと本作品を見るまでは旭さん10に対して裕次郎(あ、呼び捨てだ)2、見た後は裕次郎さんが9になった(まだ旭さんのほうが勝ちだけど)。つまりそれくらい素敵なのだ、本作品の石原裕次郎は。 倦怠期に差し掛かった父・宇野重吉、母・山根寿子。娘のゆみ子・芦川いづみ(すンげー可愛い!)はある日、父親に愛人・新玉三千代がいて赤ん坊までいることを知る。 ゆみ子は偶然、愛人の弟、宗雄・石原裕次郎に出会う。 鎌倉住まいのゆみ子が愛人の家に訪ねて行くシーン、当時の東京郊外にある家までの風景がしみじみとしていて良い。愛人が意外なほど明るくゆみ子を出迎え、ゆみ子も正直に応じる。このときのやりとりを見ていると、日活映画の真髄の片一方を垣間見たような気がする。ちなみにもう一方は井上梅次監督ね、念のため。 いわゆるアイドルのアクション映画ばかりが後年話題になる戦後の日活であるが、この頃の作品にこそ、人間の「自己探求」を描くという日活のコンセプトの一つがよく出ているんじゃないだろうか。ちなみにもう一つのコンセプトは井上梅次監督の「娯楽性」(しつこい?) 事実、この映画の石原裕次郎は実に素晴らしい。スタアになった後の裕次郎にはどこかとっつきにくいところがあったが本作品の裕次郎はとても身近な感じがすると同時に演技に対する真摯な姿勢というのもヒシヒシ伝わる。 ゆみ子の両親の関係はさらに冷え切って、愛人もまた自分が犯したルール違反が身にしみて身を引こうとする。ゆみ子と宗雄が赤ちゃんコンクールに出て2等賞を獲得、大人たちの思惑とは別に自分の人生を生きていくべき赤ん坊がみんなの心を前向きにする。 心の自立、これが日活映画のポリシー。それが説教くさくならないのがよろしいね。やさしい、この映画は本当に見るものを優しくする。 この映画の優しさは作り方にもある。俳優の芝居のシーンのほとんどがスタジオ撮影で、ロケはほとんどない。俳優は映写された風景の前で芝居をするのでしっかりと落ち着いている。余計な気を使わせないようにという配慮だろう。 タイトルの乳母車はコンクールの賞品。身分詐称ではあるが一瞬だけ赤ん坊のパパになりすました裕次郎は、実生活で一度も正式な(御幣ありかも?)パパにならなかったが、既婚男性が一番魅力的に見えるのは「子供と遊んでいるとき」らしいから、なるほどこの映画で裕次郎が素敵な理由はここだったのね、と思った。 初老の夫婦、宇野重吉の妻、山根寿子は戦前は娘役で有名だった純和風の美人女優(と言うか、昔の女優さんはみんな美人なんだが)、夫の浮気にキリキリしつつも品があっていい。 (2001年01月04日) 【追記】 |
|
※本文中敬称略 |
|
file updated : 2003-05-16