「日本映画の感想文」のトップページへ

「サイトマップ」へ


黒の札束


■公開:1963年
■制作:大映
■監督:村山三男
■助監:
■脚本:高岩肇
■原作:佐野洋
■撮影:
■美術:
■音楽:
■主演:川崎敬三
■備考:川崎敬三、日本のジョージ・レイゼンビー説(ない、ない)。


 007シリーズでたった1本の主演作を残して去ったジョージ・レイゼンビー。本作品の川崎敬三にも同じ系譜を感じてしまうのは筆者だけか?産業スパイや汚職など派手なテーマが多い「黒」シリーズの中ではかなり所帯くさいがそこんところもまた、異色。

 黒のシリーズは宇津井健と田宮二郎だけが主役だったのではない。本作品は川崎敬三が主演である。ちょうどショーン・コネリーとロジャー・ムーアにはさまれた、ジョージ・レイゼンビーみたいなもんだと思えばよろしい(か?)。

 企業合併で前社長に可愛がられていた重役が続々と更迭される中、社長と同じ学閥で出世した桧山・川崎敬三もライバルの吉田・中条静夫にその地位を脅かされる。プライドの高い桧山は恋人の瑛子・三条江梨子に無断で会社を辞める。

 桧山が退職したのは、出入りの印刷工場の社長・見明凡太郎から偽札作りの話を持ち込まれたからだ。元ゲバ学生の石渡・高松英郎とその内縁の妻、妻の浮気相手・杉田康らを仲間にした桧山は、この計画のスポンサーが昔の恋人、澄江・藤原礼子であることを知る。

 計画は順調に進み、桧山たちはまず都内で偽札をばら撒き、銀行員でもなければ見破れないほどの出来栄えを確信すると、競馬場や競輪場で銀行の休業日を狙って両替をし続けた。ところが事件は意外なところでアシがつく。

 印刷工の逮捕をきっかけにバラバラと仲間が捕まっていく過程はとてもリアルだ。「仲間のことは口を割らないように」なんて言ってたくせにパクられた途端、ペラペラペラペラ面白いように自供、ま、所詮素人だからな。

 黒のシリーズは産業スパイや法廷など日常生活からちょっと離れたところがいつも舞台だったが、これは日常にぽっかり開いた落とし穴という生活感のある一編。ひねくれた二枚目の川崎敬三にはドンピシャだ。だって宇津井健と田宮二郎には無くて川崎敬三にあるものと言えば劣等感と生活感だから。

 一応、インテリの主人公は、計画を実行にうつすとき、どの札を偽造するのが一番得策か、ということについて儲けとリスクを数値で計算し仲間の説得に成功するのだが、こういうディテールがこの作品の密度を上げている。

 そのかしメンバーはダサっぽいのでヒヤヒヤする。ところが意外と最後まで頑張ったのが胡散臭いほうで、ケツ割ったのがリーダー格ってのもシニカルでいい感じ。

 いつもは悪党側の北城寿太郎千波丈太郎が刑事で、主人公の同僚に藤山浩二が出ていたのが珍しい。というかこの強面どもが活躍したんじゃあこの作品の所帯臭さは台無しだ。だってねー日常生活を鑑みるに刑事さんって人相悪いもん、大概ねー。いかにも悪そうな悪党ってそうはいないのよね。

 主人公の恋人は最後の最後まで主人公を信じていた天使みたいな女性で、最後に警察に連れて行かれる桧山を必死に追っかける。こけつまろびつで、アンタ馬鹿なんじゃないの?というくらいクサイ芝居だったが、大団円だったので許す。

2001年01月04日

【追記】

※本文中敬称略


このページのてっぺんへ

■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16