「日本映画の感想文」のトップページへ

「サイトマップ」へ


風の中の牝鶏


■公開:1948年
■制作:松竹
■監督:小津安二郎
■助監:
■脚本:斎藤良輔
■原作:
■撮影:
■美術:
■音楽:
■主演:田中絹代
■備考:


 田中絹代の「階段落ち」。

 終戦後、未だ復員しない夫、雨宮・佐野周二を、余裕はないが気のいい一家が住む民家の二階に間借りして、幼い息子と待つ妻、時子・田中絹代。物資が不足している上に現金もないので、時子は手内職しながらかつての同僚の秋子・三宅邦子に頼んで着物を売ったりしてなんとかしのいでいた。

 あんこ玉を食べた息子が大腸カタルに罹る。時子は息子を入院させたが、前払いする金がない。時子は秋子と同じアパートの住人で、売春の斡旋をしているいけすかない女、織江・村田知英子の紹介を得て、一晩だけ身体を売る。

 息子が無事に退院したその日、雨宮が帰ってきた。時子は息子の病気の話をするうちに、金の工面の方法を問い詰められて耐え切れず、事実を喋ってしまう。再会を喜んだのもつかの間、ショックをうけた雨宮は家を飛び出す。

 通信社に復帰した雨宮は、同僚・笠智衆に期待されるが元気がない。雨宮は時子が身体を売った家に、客を装って訪問し、事実を確認する。ウラを取らずにいられない、ジャーナリストの哀しい性。

 家に寄り付かない雨宮をなんとか引きとめようとした時子は、もみあううちに階段から転落。ビッコになりながらも、雨宮に出て行かないで欲しいと懇願する。雨宮は時子に、すべてを忘れて出直そうと言う。

 鉄砲階段は落ちると下まで一気なので、最近は高齢者のいる家庭で新築するときに大工さんから注意されたりします。手すりつけろとか踊り場作れとか。でも昔の階段って大体があんなでしたね。

 その階段を田中絹代が真逆さまにずずーっと落ちます。映画がそれまでトロトロ進んでいくので、ここはかなりビックリします。うーんこれしきのことで「バイオレンス」なのか?とも思いますが、この監督の作風からすれば大冒険なんでしょう、たぶん。それに落ちるのが田中絹代だし。

 さらに凄いのは、その階段をよじ登っていく田中絹代です。「蒲田行進曲」の平田満なんて足元にも及ばない気迫です。

 主演の一人、佐野周二は戦前の二枚目でしたが実生活では3度も応召されて、最初の奥さんを亡くしているそうです。戦争のおかげで割を食った人の代表みたいな人で、本作品にはマッチしすぎなので観る方が困ってしまいます。

 戦後の貧乏大変なテーマは映画でもよく出てきますが、いつも思うのはこうして着物や身体を売る人がいる片方で、その着物や身体を買う人がいる、ということです。人間、潰されるときには平等でも立ち上がるときにはばらつきが出るという、教訓ですねえ。

 陰々滅々な映画かと思うとしっかりとユーモアも忘れられていません。秋子と時子が土手でお弁当を食べるとき、思わず咲いた昔話に「あなたあの化粧品が好きだって、ファックス・マクター」「マックス・ファクターよ」たぶんコレ実話なんじゃないでしょうかね、きっと誰かやるだろう間違いですから。

 マージャンしている客のひとりが三井弘次。どこにいても、なにをしていても、出場の多少にかかわらず記憶に残る人(声)。

2000年10月28日

【追記】

※本文中敬称略


このページのてっぺんへ

■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-06-06