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白痴


■公開:1999年
■制作:手塚プロダクション
■監督:手塚眞
■助監:
■脚本:手塚眞
■原作:坂口安吾
■撮影:
■美術:
■音楽:
■主演:浅野忠信
■備考:


 太平洋戦争末期の東京大空襲、か、または近未来的な大戦の最中という設定なのか。荒涼とした焼け野原、死体がまだブスブスと煙っているところに、突如出現する極彩色のモデルたち。

 一面の廃墟にそびえたつのはテレビ局。鬼軍曹のようなプロデューサー・原田芳雄、人造的なアイドルタレントの銀河・橋本麗香とそのマネージャー・小野みゆき。主人公の伊沢・浅野忠信はそこで演出助手として働いている。

 伊沢は仕立て屋夫婦・藤村俊二、江波杏子の二階に下宿していて、そこの娘・あんじは父親不詳の腹ボテ女。隣家には狂人とされる木枯・草刈正雄が、白痴の女、サヨ・甲田益也子と一緒に暮らしている。

 ある日、伊沢が帰宅すると以前から脱走癖のあったサヨが押入れの中に隠れていた。二人は奇妙な同棲生活を始める。やがて空襲が激しくなり、伊沢が住んでいた路地一体は丸焼けになる。二人は必死で逃げた。

 ラストにワンシーン登場するのは、坂口安吾とそのゴミタメのような部屋。

 ともかくも架空の時代設定と空間の中で物語は、昭和初期のノスタルジーを漂わせた不思議な世界です。

 登場するテレビ局は軍隊のようで、ちょっと「第四惑星の悪夢」(「ウルトラセブン」参照)を思い出してしまいました。ただしサイボーグは登場しないんですけどね、いや、いました、ハリウッド映画の画くサイボーグだってもうちょっと人間っぽいんじゃないかという、甲田益也子。

 大空襲のシーンは迫力ありすぎで、まあ実際はあんなにガソリンぶっかけたみたいに、こんがりとは焼けないんでしょうけども。ようするに爆弾というよりは単なる火事場っぽいわけですが、これでもかとタイミングよく炎の大盤振る舞いには圧倒されます。

 監督の手塚眞は、筆者と同じ大学なのでよく構内で見かけましたが、当時から有名だったんですね、サブカルチャー系の雑誌なんかに登場してたんで、ひょろひょろっとした目つきの悪そうな(ご本人、強度の近眼だとか)暗い奴という印象しかなかったんですが、ところでヴィジュアリストって何?

 この映画はなるほどヴィジュアルにはアイデアが豊富で、本当に目を楽しませてくれるんですが、致命的なのは芝居の部分でしょう。原田芳雄や江波杏子、草刈正雄という歳食った連中と比べると、特に銀河ですが、あまりにも未熟で稚拙、特に台詞回し、なため心地よく画で酔った気分が急激に醒めちゃいます。

 ラストの音楽は「展覧会の絵」。これって手塚治虫の長編アニメ「展覧会の絵」を観た筆者としては、「キエフの大きな門」を聞いたら自動的に感激するようにプリントされてますから、おおーこれは素晴らしい!と、「十戒」みたいな炎のトンネルには感動したんですが、ここで終わっといてくれたら良かったんですけど、、。

 なんだかわかんないけど感動したぞー!となるはずだったのが、原作者の坂口安吾の登場で、これまたあまりにも行儀よく閉められてしまうのでスケールが一気に萎んじゃいました。

 結局のところ見世物としては素晴らしいが、芝居はトホホ、ってな映画だったと思います。

2000年11月18日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-06-06