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地の群れ


■公開:1970年
■制作:えるえふプロ
■監督:熊井啓
■助監:
■脚本:井上光晴
■原作:井上光晴
■撮影:
■美術:
■音楽:
■主演:鈴木瑞穂
■備考:


 昭和十六年、少年が炭鉱で働く朝鮮人の娘を妊娠させたことを娘の姉から問い詰められたが、言い逃れをして姿を消した。戦後、医師になった少年、宇南・鈴木瑞穂は佐世保で開業医となる。佐世保には被爆者が寄り集まった海塔新田と呼ばれる地域があった。

 原爆症と思われる少女を診療した宇南はなんとか母親・奈良岡朋子に被爆者であることを認めさせようとしたが、被爆者が受けていた差別を思い、母親は頑強に否定した。

 海塔新田出身の少年、信夫・寺田誠は小さい頃、原爆病で死んだ母親似のマリア像を盗み出しこわしたことで大人たちに折檻されて以来、すさんだ性格になった。たまたま被差別部落の少女、徳子・紀比呂子が強姦される事件があり、信夫は警察に呼び出される。

 徳子は信夫とは顔見知りであったが信夫は犯人ではなかった。徳子は犯人の体にケロイドがあったことから、信夫から容疑者を聞き出し、海塔新田の家に案内させた。真犯人の真・岡倉俊彦は父親・宇野重吉の前で自分の無実を訴えた。

 その夜、徳子の母親・北林谷栄が再び真の家を訪ね父親と言い争いになったとき、思わず被爆者を罵る言葉を吐いたため、海塔新田の住人たちから投石を浴び、投げつけられたトタン板の破片で喉を切られたのが致命傷となって死んだ。

 信夫は仲間を売ったと詰問され、海塔新田を追放された。必死で逃げ込んだのは徳子の住む部落だったが、ここでも信夫は母子の敵として追われた。

 宇南は妻・松本典子からなぜ赤ん坊を生ませてくれないのかと責められていた。彼もまた、被差別部落の関係者だった。それだけではなく、妊娠させた朝鮮人の娘を自殺に追い込んだという過去があり、また、原爆投下直後の長崎を父親を探して歩き回った経験があったことで原爆症にも怯えていた。

 逃げ惑う信夫は、真新しい団地にたどり着く。そこには原爆も差別も何事も無かったように微笑む平和な家族の姿があった。信夫の居場所はもうどこにもなかった。

 この映画は日本人があまり見ないようにしてきた差別の数々を一身に背負ったような主人公を中心に展開します。鶏を食い殺した大量のネズミがガソリンの炎で一瞬のうちに焼かれ、火傷にのたうつ姿を見て「きゃあー、残酷ぅ〜」などと思っていると、それがかつて、人間たちに下された行為であることに思い至り恐怖でガタガタと震えます。

 浦上天主堂のマリア像を見て、なぜ原爆を落としたアメリカを恨むのがいけないんだ!というナレーション(大滝秀治三条泰子)が入ります。歴史の授業でもすっ飛ばす近代史の、中でもとりわけ「見ないように」している諸々のことをこうもストレートに見せ付けられる映画は他に知りません。

 差別は差別されている者同士の間でも確かに存在するのだとこの映画は強烈なビジュアルで我々に迫ってきます。

 虐げられる者、イコール、天使であるということが間違いだと、そうはならいのが現実であると、この映画は確信させます。

2000年11月10日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-06-05