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女体渦巻島


■公開:1960年
■制作:新東宝
■監督:石井輝男
■助監:
■脚本:岡戸利秋
■原作:岡戸利秋
■撮影:
■美術:
■音楽:
■主演:吉田輝雄
■備考:後に石井輝男監督作品の常連となる吉田輝雄のデビュー作。

ネタばれしてます!


 この映画はすばらしい。なにがすばらしいかというとタイトルを見ただけで一生忘れられなくなるからである。「女体が渦を巻く島」なのか「女体に渦を巻いている島なのか」どうでもいいけど。 

対馬が大陸への犯罪基地だったころ。香港を拠点にする麻薬組織の手先としてキャバレー経営を任されていたマダムの百合・三原葉子のところへ組織の一匹狼(ってなんなんだ?)、大神・吉田輝雄がやって来る。大神は百合の元彼で、二人の仲は因業な親分の陳雲竜・天知茂が力づくで引き裂いたのである。大神はの目的は、陳の情婦になった百合に事の真相を百合に糾すとともに陳に復讐を果たすこと。

 キャバレーのマネージャー、本田・近衛敏明と黒川・沖啓二(後、竜二)は百合にはナイショで女給たちをクスリ漬けにして密売に荷担させていた。大神は新入りの志摩・万里昌代をスケベな本田の魔手から救った。怒った本田が大神を殺そうとするが撃退される。

 韓国の密輸団のボス・大友純との取引現場に警察が踏み込む。本田は陳に連絡して大神を処分させようとしたが、逆に密輸の内職がバレて拷問される。陳は百合を捨てて女給たち全員を東南アジアに売り飛ばすことにした。

 大神は陳の手下と対決。本田に雇われた殺し屋・松原緑郎が大神を助けて死ぬ。激しい銃撃戦の最中に百合が撃たれて死ぬ。通報で駆けつけた警察に追い詰められ、陳は崖から身を投げた。

 筆者は石井輝男と福田純と岡本喜八の熱烈信者なので、お三方の作品には思い切り肩入れするからそのつもりで。

 娯楽映画に必要なものは何かということを知り尽くしている作り手は過剰なまでのサービス精神で客を引っ張る。バイオレンス、エロティシズム、弱きを助け強きをくじく、スリルとサスペンス。

 そしてイイ男とイイ女。悪は徹頭徹尾ワルらしく、ヒーローは観てるこっちが赤面するくらいフェミニストでカッコ良く、ヒロインはあくまでも男まさりで美しい。

 主演の吉田輝雄は本作品がデビュー作。表情がコチコチでまるでサイボーグのようだ。緊張のせいか目も怖い。随所に見せるサラリーマン的な折り目正しさはさすが元本職(湯浅電池の営業マン)。新人・吉田に対する天知茂のキワモノ演技はこの映画にゼッタイに在ってはならない生活感ぶっ飛ばすので爽快。

 天知茂と吉田輝雄の対決シーンは、二人の身長差が激しいのでハラハラしたが岩場のアクションだったので気にならない、と言うか、そういうの気にしないように。

 国籍不明な映画だが、ここまで時代を経ると外国映画の風情すら漂う。天知茂や吉田輝雄や三原葉子を知らない輩が見ればとても日本映画とは思えないのではないか。あ、でも日本語話すからダメか。

 かくして吉田輝雄と石井輝男のゴールデンコンビはこの映画で誕生したわけだ。

 銃撃の最中だと言うのに、自分を助けて死んだ敵の殺し屋を吉田輝雄がクソ冷静に誉めて「俺が女だったらちょっと惚れるかもしれないな」、、、笑った。このヒト、実はもう完成してたのかもしれない。

2000年12月03日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-06-04