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花の不死鳥


■公開:1970年
■制作:松竹
■監督:井上梅次
■助監:
■脚本:井上梅次、石森史郎
■原作:
■撮影:
■美術:
■音楽:
■主演:美空ひばり
■備考:


 井上梅次は新東宝と日活でスタア映画、歌謡映画を撮り続けてきた人である。よく言えば職人肌、あけすけに言えばプログラムピクチュアの第一人者である。

 札幌でクラブのマダムをしている香・美空ひばりには、かつて有名作曲家の瀬戸・芦田伸介と喧嘩別れした弟子の神・井上孝雄という恋人がいたが、彼は仕事を優先して香を捨て、一人で東京へ行ってしまった。

 神の友達で売れない作曲家の下条・長谷川哲夫は香と一緒に暮らしていた。歌謡界の重鎮として各賞の審査委員をつとめる瀬戸を香に紹介したテレビプロデューサー・園井啓介は香を歌手デビューさせようとするが、瀬戸と香は口論になってしまう。

 神が香を迎えに来た。下条は香のためにダンサーと浮気していると見せかけて無理矢理、香と別れようとする。東京へ来た香は覆面歌手として売り出す。瀬戸と香は親子だった。

 父親が失明寸前と知った香は頑迷な父とついに和解する。香は一途な下條を選び、神は音楽プロデューサーとして香を応援する。

 筆者は美空ひばりの本物を観たことがある。

 言っとくが新宿コマとかそういう場所ではない。TBS(東京放送)のスタジオ、で、である。ちょうどリハーサル中だったのだが、女王はカッコ良く歌っていた。そこへディレクターから「恐れ入りますが少し下げていただけますか?」という馬鹿丁寧な指示が出た。女王ひばりは歌の振りを続けながら「ンン」とうなづいた。

 これがタレントさんのあるべき姿なのかーと感動した筆者(当時、中学生)は後、某テレビ局で働き出したとき、ディレクターのタレントに対する態度があまりにも違ったので驚いた。なぜタメ語!?

 こうして筆者の中では美空ひばりは伝説になったのである。

 では、本題です。

 客にバレバレのヒロインの秘密、誰も彼もがヒロインを応援していて、誰一人として傷つかない。まるで商業演劇のようだ、ってそういう映画なんですけどね。

 もちろん美空ひばりと言うのは別格なんだろうけどもね。

 女王・ひばりの映画であるからゲストも豪華だぞ。

 ひばりにフラれてもなお応援しつづけ、かつ代償を一切要求しないと言う神様のようなライバルレコード会社の御曹司・石坂浩二、添え物のような歌謡ショーには橋幸夫ディック・ミネ、司会は「どーも、どーも、どーも」の高橋圭三だ。

 これは「ひばりの、ひばりによる、ひばりのための映画」なのである。ファンから見れば美空ひばりは薄幸かつ美貌のヒロインだという約束事をアッサリと了承できるだろうが、そうでないひとには、化粧の濃い垢抜けないオバサンにしか見えないのでどうしようもない。

 じゃあ見るなよ、って感じ。

 ああこれは、劇場用映画の仮面を被ったプロモーションビデオなんだな、と思えばよろしい。

 井上梅次といえば「黒蜥蜴」。クサイ演出がこれまた味わい深いものがあるが、片方ではスタアの御用達監督でもある。スタアをスタアらしく臆面もなく撮る、これが身上だし、そういった世界で通用した最後の一人だったんだろうね美空ひばり、という人は。

 演出上の効果とはいえ、覆面の新人歌手と言う設定の美空ひばりに「がんばってね!」などの暴言を吐く橋幸夫は相当なプレッシャーだったに違いない。

2000年11月25日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-06-02