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徳川女系図


■公開:1968年
■制作:東映
■監督:石井輝男
■助監:
■脚本:石井輝男
■原作:
■撮影:
■美術:
■音楽:
■主演:吉田輝雄
■備考:フツーでいることの異常さ。


 石井輝男監督の熱烈信者のバイブル「石井輝男映画魂」(ワイズ出版)によれば本作品について監督の頭の中に「忠直卿行状記」があったそうだ。忠直卿は都市伝説も含めて皇帝ネロもビックリ!って感じの大暴君ということになっている。でもそれが吉田輝雄だったりなんかするのが石井監督の味わい深いところだ。

 将軍、徳川綱吉・吉田輝雄はある日、大騒ぎする大奥の女中たちの中からおみつ・御影京子を指名する。純粋なおみつは綱吉のファンだったのでイキナリの大抜擢にドキドキ。

 大奥と言えば女の園、そこは綱吉の正室、信子・三浦布美子を筆頭とする万理小路・有沢正子の京都派と、江戸っ子の肝っ玉母さん、こと、お伝の方・三原葉子の両派が勢力争いをしていた。京都派のおみつは早速対立派閥のオネー様たちから陰惨なリンチをうけて大奥を追放されてしまう。

 そうとは知らない綱吉は替え玉をあてがわれ、その事実が女中たちのおしゃべりで発覚すると、今までどちらかというと可愛いボーヤだった彼の性格は豹変する。綱吉はトップレス相撲大会で優勝した怪力女、おさよ・賀川雪絵をご指名、ところがこの女も実は将来を誓った恋人がいた。

 大奥の派閥争いが原因、みんなこびへつらうだけで自分はただの飾り物だと捨て鉢になった綱吉は、本当の本心で自分を愛してくれる女を求めて次々に妾を取り替えたり、気晴らしに乱痴気騒ぎを繰り返したため、家臣はもとより正室の信子からも失笑を買う始末。

 綱吉のご乱交を聞きつけた柳沢吉保・南原宏治が京都出身の公家の娘、染子・應蘭芳を大奥へ上がらせた。今度こそと思った綱吉だったが、案の定、この女は柳沢吉保の情婦だった。怒った綱吉は今度は実直な家臣、牧野備後守・小池朝雄の妻を抱く。牧野は綱吉を命がけで諌めるために妻を差し出したと告白後、その妻とともに自害した。

 自分の両目を潰して身の潔白を証明したおみつと再会した綱吉はやっと人の善意を信じられるようになったので、染子が産んだ男子を世継ぎにしたいと言い出す。柳沢吉保の子供であることを知っていた信子は徳川の威信と血統を守るため綱吉を刺殺した。

 これだけ大量のハダカオンナに囲まれたら少しは変態に見えても良さそうだが、理性の人・吉田輝雄はこのようなプレッシャーにもその朴訥な人柄をスパークさせて最後まで変態にはならなかった、ヘンだったが変態ではない、どっちかというとフツー、だけどこういう状況でフツーなのはすごくヘン、ここんところポイントね!

 もうこの人のモノローグで何べん、椅子から転げ落ちそうになったことだろう。「ああもう、許せ、ああ〜」って大人の男の悶え声ってのも難ですが、それが実はジャンボな三原葉子に無理やり水密柑を食わされてたっていう、つまりこれギャグだったの?な暴力的なお笑いシーンでも吉田輝雄はあくまでもフツー。

 鼻っ柱の強さなら負けない賀川雪絵の尻を見つめて「目が眩みそうじゃ」って剛速球な台詞吐いても、やっぱフツー。茂みで放尿する應蘭芳を見て「なんと大らかなオンナだ!」って、感動するなよ!と客はあきれ返るが吉田輝雄は全然フツー。

 そんな吉田輝雄に南原宏治と小池朝雄が思いっきりクサく絡むが、どうあがいても吉田輝雄はフツーなまんま。

 「こんなお下劣な映画によくも私を出したわね、きぃっ〜」となった(推定)三浦布美子の刃を横っ腹に喰らっても「生まれ変わりのチャンスだ」という意味不明、というかヤケクソなモノローグを残して死ぬ、フツーな人、吉田輝雄。

 きっと忠直卿もこういう人だったのに違いない、きっとフツーの神経を持った素直な人だったのだろう。吉田輝雄のフツーさがこれほど説得力をもったキャラクターがほかにあっただろうか?これは吉田輝雄のために作られた作品だと言っても過言ではないかも。

2000年09月09日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-06-01