「日本映画の感想文」のトップページへ

「サイトマップ」へ


孤独


■公開:1964年
■制作:松竹
■監督:市村泰一
■助監:
■脚本:桜井義久
■原作:
■撮影:
■美術:
■音楽:
■主演:橋幸夫
■備考:


 日本最高最強の不良型俳優と、健全優良型アイドルの対決。

 不良俳優ったってあーた、別に暴力沙汰を起こしたとかクスリでとっつかまったとかそーゆー違法行為をする俳優のことではない、多少の素行不良はこのさい目をつぶる。不道徳なヒーローやらせたらたぶん日本映画史上最高の俳優は高城丈二だったのではないか、ということだからね、念のため。

 金持ちの息子、浩二・橋幸夫はボクシングだけが生きがい。浩二の腹違いの兄、伸一・高城丈二もかつては学生チャンピオンで今はアマチュアチャンピオンを目指していた。

 浩二と伸一、それにボクシング部の先輩、槙・菅原文太と浩二の遊び仲間たちは伸一と浩二の父親が所有していた湘南の別荘に集まって、酒と女に囲まれて毎日怠惰に過ごしていた。槙は金のために伸一の姉、令子・ジン福田と婚約していた。

 ある日、浩二はドライブの途中、土砂降りの雨の中、道端で車がエンコしてしまった穹子・桑野みゆきと知り合い、別荘へつれてきた。穹子の伸一を見る眼は殺気立っていた。穹子の恋人、進・早川保は伸一との試合で失明寸前にさせられ別荘に程近い病院に入院中、進は両親からも見放されていた。

 穹子の誘惑に乗った伸一は穹子を抱き、酒を飲まされ体調を崩し選手権試合に惨敗した。伸一に復讐を果たした穹子は学生チャンピオンになった浩二といちゃいちゃするようになり、伸一は嫉妬に狂って浩二と大喧嘩。

 ビール瓶の破片まで取り出して浩二に襲い掛かった伸一を、別荘番の老人・藤原釜足と使用人のきぬ子・真里明美が必死に止めたが、女取られて試合に負けて完全にヘコんだ伸一がきぬ子に八つ当たりをはじめたとたん、老人の怒りが爆発。伸一の父親が酔っ払ったイキオイで犯した女中の息子が浩二であること、その女中は老人のかつての恋人で後に首吊り自殺をしたことが暴露された。

 犬畜生以下の父親にソックリだと言われた伸一は愕然となり、浩二は家を出る決心をした。穹子は浩二が好きになりかけていたが、視力が永久に回復しないと医者から宣告された進に見捨てないでほしいと土下座されてしまい、浩二との待ち合わせ場所まで行ったが、最後は進と一緒に愛車で断崖絶壁からダイビングして死んだ。伸一と浩二は別荘を後にした。

 橋幸夫と高城丈二が兄弟と聞いたとたん、多くの観客は間違いなく二人は片方の親が違うかまたはどちらかが貰われッ子であると確信した、だって全然似てないっしょ?。

 何事にも弟をリードしつづけた兄に対して弟はコンプレックス抱きまくりなわけで、異母兄弟っつうことで引け目もあったろうし、実際兄貴のほうがほっといても二枚目だし、背も高いし、同業の歌手だし。いつも朗らか系の橋幸夫の卑屈極まりない演技が素晴らしい。あの、はれぼったい一重まぶたの三白眼が業の深さを感じさせてグーだ。

 ヒロインの桑野みゆきは、どーしてもあの天井向いた鼻の穴が気になってしょうがないんだが、恋人の目を潰されて、その後、絶望的になった恋人からすがられてヤケクソになった挙句の復讐劇に身を滅ぼす。大河ドラマのような人生に自ら決着をつける情念の濃いヒロインに憐憫の情をもよおさない者はいないだろう。

 が、しかし、この映画の美味しいところを一気にさらったのは、関係者から野獣呼ばわりされる伸一役の高城丈二。ルックスから想像するに「太陽がいっぱい」のモーリス・ロネのような退廃的な魅力が大爆発。ボクシング選手のくせにゆるい体で、これなら連打されてマウスピースも吐き出すだろう下っ腹なのだが、そこがまた不良らしくていい感じだ(どういう感じだよ)。父親の堕落した人となりを最も嫌悪していたのは伸一で、それゆえ力だけで世間に認められるボクシングにのめりこんだ。こういう複雑な大人の不良は高城丈二の十八番だね。

 出演者のそれぞれの孤独が希薄な人間関係の中で浮び上がり、やがて現実のしがらみや過去の因縁で際立ち、悲劇が生まれる。演出はクサイがストーリーの上手さでカヴァーした青春ドラマ。

 ちなみに、高城丈二と菅原文太は同期という設定なのだが文太のニックネームが「秀才のマッキー」笑えばいいのか?

2000年09月10日

【追記】

※本文中敬称略


このページのてっぺんへ

■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-31