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怪猫 逢魔が辻


■公開:1954年
■制作:大映
■監督:加戸敏
■助監:
■脚本:木下藤吉
■原作:
■撮影:
■美術:
■音楽:
■主演:入江たか子
■備考:


 入江たか子の化け猫映画は全部アタリだ。

 市川仙女・入江たか子は当代随一の人気を誇る、女歌舞伎役者であり座頭である。名門、中村座の舞台を踏めるのは大変に名誉なことだったが仙女はここでも連日大入り満員。

 中村座に出演するにあたっては、仙女の劇団の一員である染若・霧立のぼるの姉で茶屋の女将、お粂・村田知英子が妹可愛さにイロイロと手を尽くしていた。染若としては姉の七光りで当然、主役をモノにできると思っていたが実力がないため脇へまわされてブーたれていた、これには姉のお粂もカチーン。

 お粂は色仕掛けで幕府の用人にもコネがある。仙女の幼馴染で恋人だった浪人、源次郎・坂東好太郎を仕官をエサに横取りし、一座のパシリや若手の役者を金で手なずけたお粂は、プライドを傷つけられたため妹思いの範疇を超えてついに実力行使に及ぶ。

 お粂は劇場の大道具係の彌兵衛・尾上栄五郎に金を渡して花道に細工をして仙女に重症を負わせ、それでも仙女がメゲナイで千秋楽まで演じきると、今度は打ち上げの席で仙女の上座を自分に譲らせて嫌味言いまくり。あげくは無理に酒をすすめて断った仙女に杯を投げつけ、仙女の顔を傷物にしてしまう。

 ところが仙女には商人の息子、友之助・勝新太郎という有力な後援者がついていて名医を紹介してくれたので傷は快方にむかう。染若にスパイさせて仙女の回復ぶりを知ったお粂は源次郎に毒薬を持たせ、仙女の傷口にすりこみ二目と見られる顔にしてしまう。

 絶望した仙女。愛弟子の登女次・橘公子は偶然、お粂と源次郎と彌兵衛がとんだ悪玉トリオであることを知ってしまい、源次郎に自殺にみせかけて殺される。

 そうとは知らない仙女は同じく愛弟子の小蝶・阿井美千子に跡目を譲り自分は引退するつもりでいた。源次郎に舟遊びに誘われた仙女はそこで源次郎の腕に登女次が噛み付いた傷があることを知り、源次郎を問い詰めたが逆に斬り殺されて川に突き落とされた。

 仙女の幽霊からコトの真相を聞き、放置された小船から仙女の血のついたかんざしを拾った小蝶が番所へ走ったことを知ったお粂は源次郎に小蝶殺害を依頼、逢魔が辻で小蝶を待ち伏せた源次郎に小蝶がやられそうになったその時、仙女と登女次の幽霊が現れて小蝶を逃がす。

 仙女は今わの際に愛猫のミーちゃんに復讐を頼んでいた。花道の仕掛けや大道具係の悪事を察知してなんとか主人に知らせようとしていた忠義なミーちゃんは、早速、仙女に化けて彌兵衛を奈落で殺害。

 まんまと仙女に替わって主役の座を射止めた染若だったが、実力の無さはいかんともしがたい。演出家のダメ出しにむかついて裏方を怒鳴り散らした直後、舞台に颯爽と登場したミーちゃんにつかまり喉を噛み切られた。

 残るお粂はミーちゃんに散々ネコジャラシでいたぶられた末、劇場の天井を突き破り屋根の上へ放置される。小蝶の通報でかけつけた役人に抵抗する源次郎もネコジャラシパワーで体の自由を封じたミーちゃんは、源次郎が役人にボコボコにされるのを満足そうに見届けた後、仙女を守った友之助と小蝶との別れを惜しむように消えていった。

 怪談映画でありながら、芸道映画の趣もあって、しかも、化け猫のみならず四谷怪談のネタも盛り込むという、なんてゴージャスな、ここまで豪華でありながらもなお化け猫映画だなんて嬉しすぎるぞ!

 女歌舞伎役者という設定なので入江たか子が見せる舞台シーンはあまりの美しさに目がくらんじゃう。いよいよクライマックスで登場する幽霊も水の中からの登場あり、舞台で飛んで跳ねてのアクションあり、吹き替えシーンを除いても入江たか子がいかに優れた運動神経の持ち主であったかがよくわかる。

 そして最後はイジワル女を小脇に抱えて劇場の花道の上をフライング!おーっなんという観客サーヴィス、感激せよ!感動せよ!そして感謝せよ!(筆者ノリノリ)

 ミーちゃんが、って入江たか子が演じる化け猫ですが、無益な殺生をしないところもイイ。そうだよねー主人が生きているときから悪い大道具係の顔面を思いっきりヒッカクような良い子だもんね。

 イジワルおねーさんの村田知英子と小憎たらしい霧立のぼるも実際、めちゃくちゃ綺麗だからこその陰湿さがかもし出されてグッド。こういう脇の敵役がそれらしく演じて、入江たか子の役者魂に呼応して?、くれなければ客のカタルシスは成立しない、ここにも感激&感動&感謝だ!

 入江たか子の化け猫映画にハズレはないのだ、ゼッタイに。

2000年09月16日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-31