恐喝こそわが人生 |
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■公開:1968年 |
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今じゃ考えられないかもしれないが、あの、行儀のいい松竹ですら、日本映画業界が迎えた初めての低迷(今もだけど)期にパニックを起こし(たとしか思えない)東映のやくざ映画路線へ足を踏み入れたことがあるのだ。 駿・松方弘樹、元刑事の関・室田日出男、混血児・城アキラ(現・ジョー山中)、フーテンのお時・佐藤友美、彼等四人はたまたま駿が立ち聞きした密造酒の証拠を酒屋・天草四郎につきつけて大金を強請り取ることに成功。それ以来、女優のスキャンダルやブルーフィルムで次々に恐喝を成功させる。 情婦・三原葉子のヒモ生活を送っていた駿はある時、やくざの大幹部・内田良平に子ども扱いされたことに腹を立てた駿はいつか大物を強請ってやろうと心に誓った。 政界の黒幕・丹波哲郎と会った直後に狙撃された高利貸し・石山健二郎と知り合った駿は、現首相が関与した汚職事件の証拠となる証文を高利貸しを脅迫して手に入れる。大手新聞社の記者・天知茂から恐喝の中止を忠告されたが駿はあきらめなかった。 ジャーナリスト・江原真二郎に証文を預けた駿は単身、政界の黒幕と取引しようとするが、先手を打たれてしまい証文は役に立たなくなる。とうとう恐喝をあきらめて取引現場を立ち去ろうとした駿は殺し屋に刺殺された。 きっとモダンなアクション映画になるはずだったと思うんですよね、この作品は。ただねえ、松方弘樹は綺麗ですけれども野暮ったいですから、そこが親しみやすさなんでしょうが、イマイチ都会的なセンスががっぽりと欠落しています。 そんな主役が映画をぶち壊しているかと思うと、ところがドッコイ、結構サマになってるんですね、コレが。それはシチュエーションが小汚くて不健康の代名詞、新宿だったからでしょう。ま、松方弘樹が最後に死ぬのは東京・有楽町の日劇前という東宝の縄張りのまん真中(ただしはす向かいは東映会館)なのですが。薄汚れた環境の中では掃き溜め(新宿区の皆さんごめんなさいねえ)に鶴ってことで、なかなかクールでイケてるお兄ちゃんでした。 新宿生まれが有楽町でのたれ死ぬというところになかなか味わい深いものがあるんですね、きっと。でもってこの刺殺シーンのロケがかなり凄いんです。雑踏の中で最初は完璧にゲリラロケなんです。イキナリ悶える主人公見て、通行人マジでビビってましたもん。もちろん大流血後はちゃんとしたロケですが。じゃなきゃ一発で警察に通報されますわ、あの場所じゃあ。新宿ならオッケー?イヤ、本物だと思って飛び入り参加する奴とか出そうですからさに駄目でしょう。 この映画がさらに凄いのは、丹波哲郎(出演時間総数約1分、以下同様)、天知茂(約30秒)、江原真二郎(約2分)、三原葉子(約45秒)、内田良平(約40秒)そしてなんと川津祐介に至ってはほんの数秒という出場の短さです。まるで「新幹線大爆破」みたいでした。 その分、松方弘樹は大活躍でナレーションまで引き受けてます。 時折フラッシュバックする回想シーンや、どぶ池に浮かぶ鼠の死骸が妙に暗示的、とまあ深作欣二監督らしい演出手法とやらなんでしょうけど、これじゃあまるっきり東映じゃん?あ、脚色なんか神波史男だし、、、。 ある時期、東映のバイオレンスなやくざ路線がヒットして各社が真似しようとした時期があったけど、そういう映画の一つなんでしょうね、きっと。 松方弘樹はこの作品のほかに松竹で「皆殺しのスキャット」とかあるんですけどそれに比べると室田日出男や豪華絢爛な強面ゲスト集団とジャンボな助っ人(三原さんですよ)を得てさらに東映色が強まった環境でノビノビしてたかな、と思います。だから面白いかというとどーだかなあ、というところで左翼っぽくソフィストケーテッドしようといくら頑張っても所詮、チンピラ映画の域を出なかったということが鮮明になった映画だったと思いますね。 (2000年06月10日) 【追記】 |
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※本文中敬称略 |
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file updated : 2003-05-16