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曼陀羅


■公開:1971年
■制作:実相寺プロ、ATG
■監督:実相寺昭雄
■助監:
■脚本:石堂淑朗
■原作:
■撮影:
■美術:池谷仙克
■音楽:
■主演:岸田森
■備考:死に顔で笑いをとる男・岸田森。


 岸田森はカルトな人気のある俳優だが、素晴らしいのは本人に自分がカルトであるという意識がほとんど感じられなかったことだ。 本人はいたって真面目、ごく普通にセット入りしたところ「き、岸田さん、すごくヘン!」と言われてはじめて気がつく、ということだったらしい。天然のヘン、これを神技と言わずしてなんとする!?

 なにかのインタヴューで読んだのだが、岸田森さんは観客(および他人)から見るとトンでもない扮装であるにもかかわらず本人には全然普通に思え、自分以外の人から注意または指摘を受けるまでまったく気がつかないのであると告白していた。

 生まれながらのキワモノ役者である、天晴な方ですねえ、私、大好きなんですよこういう役者。

 日常のセックスに刺激を求めようということで、田村亮桜井浩子清水鉱治(名前の字は適当です、すいません出ないんです)と森秋子の2組のカップルが浜辺のモーテルで互いの恋人を交換して楽しんでいた。

 清水と田村と森の三人はそれなりに楽しかったのだが、桜井浩子だけは純情な人だったらしく大変に憤慨したため、田村亮になぐさめられながらもモーテルをとっとと引き上げた。残った清水と森は海岸で謎の二人組・草野大悟らに襲撃される。清水と森が強烈なボディーブローで失神させられている間に、森は犯され、息を吹き返した清水は死体のようになった森をさらに犯して異常な興奮を経験する。

 京都の自宅アパートへ戻った清水と森が、襲撃事件に何か作為的なものを感じ、再びモーテルを訪ねるとそこには完全な自給自足とセックスによるユートピアを目指す男・岸田森がいた。二人は山奥に密かに開墾された密教の寺院に案内された。神と交わる巫女・若林美宏とともに暮らす岸田とその弟子たち・花柳幻舟らの世界に二人は馴染んで一緒に暮らすことにした。

 残された田村亮と桜井浩子は、二人の消息を訪ねてやはり海岸で襲撃されるが、田村だけは岸田のユートピアに懐疑的なまま桜井浩子と離れ離れになる。岸田はなんとか桜井浩子を説得すべく監禁した挙句に強姦するが、絶望した桜井浩子は首吊り自殺をしてしまう。

 桜井を探しに来た田村に対して、岸田と清水たちはまったく知らぬ顔で原始宗教に陶酔したように踊りくるう。怒った田村は若林美宏を襲う。人間と交わってしまい神通力を失った若林美宏は滝壷に身を投げた。

 神と交流できる巫女を失った岸田森は御神体である曼陀羅を抱えて、弟子たちを引き連れ海上へ船出するがすぐに遭難してしまう。ただ一人残った田村亮はモーテルを売り払い大金を手に入れ、東京へ向かった。

 完全なる自給自足とは言うモノの現金収入がないと生きて行けないのでモーテルを経営しているんですね。で、ここの宿泊客に女をあてがってセックスの研究、っつうか同士を探しておるんですな。一応「ポリには気いつけや」と岸田森が言うところを見ると、この人たちが「革命家」なんだろう、たぶん、ということに気がつきます。

 モーテルの各室は隠しカメラでばっちり覗かれていて、まあエッチ!なんですがそれが岸田森だとそういうオゲレツな印象にならないところが凄いです。「きっと何か途方もない国家的な計画があるに違いないわ!」と確信させる何かがあるんですね岸田森には。ま、はっきり言って生活感の無い「ヘン」な大人を演らせりゃピカイチですから、ひょっとして血でも吸うんじゃないか?とまで思わせるんですね、客の勝手な想像ですけども。

 本人はきわめて真面目であるにもかかわらず、どう考えてもトンでもない事をしている、にもかかわらず、大変に説得力がある、というところですかね、ワケワカンナイですが。

 岸田森のフンドシ姿にキュンッとなっちゃう人もいるかもしれませんが(あ、ちょっとヤバイ?かも)、当時はこの映画「芸術ポルノ」と評されたそうなので、つまりそういう生臭くない、もっと言えば人間っぽくない人(清水鉱治とか草野大悟とか)がいっぱい出ていたからなんだろうなあと思うわけです。

 その中できわめてマトモな神経の持ち主だった桜井浩子は犯されて、鎖で繋がれて、吊られて、あげくに埋められてしまうという気の毒な運命です。

 今どきのカルト宗教を思い出さずにはおれないわけですが、カリスマが岸田森なら、なんとなくオッケー(おいおい)かな?ってところがこの映画のミソですね。

 映画の最後のほうで、曼陀羅の端っこを握りしめて水死する岸田森がなぜかドラキュラ顔だったので、それ観た客が爆笑してしまい、エンディングで国会議事堂にカチコミかけそうな田村亮がまったくかすんでしまったのはご愛敬ですか、ね。

 岸田森、死に顔で笑いを取る男、惜しい人だったとしみじみ実感、かつ、合掌。

2000年02月25日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16