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路上の霊魂


■公開:1921年
■制作:松竹キネマ
■監督:村田実
■助監:
■脚本:牛原虚彦
■原作:
■撮影:
■美術:
■音楽:
■主演:東郷是也(鈴木伝明)
■備考:人間が憐れみの心をもつタイミングを失うと、、。


 シュミット・ボンの「街の子」、ゴーリキィの「夜の宿」が原作とされているが資料によっては「どん底」が原作という記述もある。サイレント映画。

 山奥で伐材所を経営している旧家の老人・小山内薫には、ヴァイオリニストになる夢を追って許婚である従姉妹を捨てて家出した息子・東郷是也(鈴木伝明)がいた。老人に気に入られている使用人の太郎・太田実は、八木節の大道芸人を見物していて見物料を支払えずに困っていた大金持ちの別荘の令嬢・英百合子のためになけなしの小遣いを叩いてやる。

 東郷是也は東京での演奏会で冷罵され卒倒、その後カムバックを果たしたが再び彼の演奏を酷評した評論家をブっとばしてとうとう音楽界を追われ、失意のうちにピアニスト・澤村春子と結婚、一女・久松三岐子をもうける。生活に困った東郷は妻子を連れて故郷へ戻ってくる。

 同じ頃、出獄したばかりの浮浪者の二人組、南光明蔦見丈夫も同様に東郷の故郷へ流れついていた。蔦見は肺を病んでおり、泊まるところもない二人はカチカチになったパンをわけあって辛うじて歩き続けていた。

 子連れで空腹の東郷たちを見かねた南と蔦見は残りのパンを恵んでやり、二又道で東郷たちと別れ、クリスマスパーティーの準備の真っ最中だった別荘へたどり着く。窓から忍び込んで食べものを失敬しようとした二人組だったが、別荘番・岡田宗太郎に見つかってしまい厳しく責められる。しかしお互いをかばいあう姿を見た別荘番は二人組を憐れに思い、令嬢の許しを得てパーティーに招待してやる。

 やっと自分の生家に到着した東郷是也は父に助けを請うが、かつての許婚である姪の気持ち思い、また、今まで味わってきた寂しい思いが老人を頑なにさせてしまう。東郷はなんとか妻子だけでも家に置いてくれと頼むが、妻子は東郷と別れるのは嫌だと泣き叫ぶ。しかたなく東郷は妻子を連れて納屋へ泊まることにした。

 その頃、別荘のクリスマスパーティーは、老人の家の使用人や八木節の芸人たちも招かれて大盛り上がり中だった。東郷と老人のいさかいを心配した太郎が来ないことが令嬢にはちょっぴり残念だったが、みんなが喜んでいる顔を見てすっかりノリノリに。

 猛吹雪の中、心配になった老人が納屋へ行ってみる。本当は許してやって一緒に住みたいのだが、息子の顔を見るとどうしても意固地になる老人。見かねた元許婚の姪が、妻子だけでも家で働けるようにしてくれと老人に願う。父との和解を諦めた東郷是也は寒さで意識が朦朧となった妻子を残して外へ出て行く。太郎と姪が駆けつけたときにはすでに娘のほうは冷たくなっていた。

 翌朝、山は一面の銀世界に。令嬢のはからいで別荘に置いてもらえることになった元浮浪者の二人組。元気な南はさっそく岡田と一緒に薪を拾いに行く。途中、雪の中で凍死した東郷是也を発見、太郎にプレゼントを渡しに行って太郎と一緒に戻ってきた令嬢は、別荘番が浮浪者を発見したとき、もし憐れみをかけてやらなければ二人は追い詰められてまた罪を犯してしまったのではないかと思い、太郎は、老人がわずかでも憐れみをかけてやれば父も娘も死なずにすんだのにと思うのだった。

 対象的な二組の運命と、幼い令嬢と使用人の恋が同時進行する。音楽も無い完璧なサイレント映画だが、令嬢の恋心を画面合成で見せたり、息子が後悔する気持ちをかつての傲慢だった自分の亡霊に語らせたり、とビジュアル的にも面白くてグイグイと引き込まれて一気に観た。

 シーリアスな映画だが、英百合子演じるお嬢様のお転婆ぶりは爆笑モノだ。お目つけ役である貴重面な執事・牛原虚彦(本人)を「うるさいわね!」という憎まれ口と一緒に空気銃でクリーンヒットするわ、小さいクリスマスツリーが気に入らないからと抱え込むようなぶっ太い巨大な天然のモミの木を手で引っこ抜こうとするわ(手が滑って上手くいかないからって、手袋したって無理だってば!)、飾り付けをしている使用人の踏台を蹴飛ばすわ、マジで危ない人だぞ。

 美形の青年音楽家役がハマリまくる東郷是也は、当時まだ学生スポーツ選手だった鈴木伝明の瞬間芸名だ。映画出演が学校にバレるとまずいと言うことで急遽つけたらしい。顔見ればバレバレだと思うけどね、あんだけの二枚目だし。

 浮浪者の南光明もナカナカ男性的な美男子。やっぱ薄幸モノには美しい俳優がよく似合う。本当に今から80年近くも前にできた映画なのかと驚くほど今見ても面白い作品。

2000年01月09日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16