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武士道無残


■公開:1960年
■制作:松竹
■監督:森川英太朗
■助監:
■脚本:森川英太朗
■原作:
■撮影:
■美術:
■音楽:真鍋理一郎
■主演:森美樹
■備考:そ、そんな殺生な!一言で言えばそういう映画。


 本多家の若君が逝去したため、家老・渡辺文雄はただちに殉死者を選定し、自主的に名乗り出るように命令する。しかし、この気の毒な道連れ第一号は、主君にベッタリで出世した重臣から選ばれたのではなく、下級武士の次男坊であったため、当の本人は逃亡の挙句に追っ手に惨殺され、残された当主は家族と無理心中を図ったが切腹さえも許されず斬首され、家はとり潰され、と散々な目にあうという事件が起こる。

 次に指名されたのが、同じ下級武士の榊原信幸・森美樹の実弟、伊織・山下洵一郎、16歳。伊織は、若君とは生前に3回くらいしか会ったことがない自分がなぜ切腹しなければならないのかと兄に詰め寄るが、家名のためだと説得され、覚悟を決めて持仏堂に籠る。

 候補者に二度も逃げられては大変と思った家老は、おとなしくしている伊織にわざわざ監視をつけ、一睡もさせないくらいのプレッシャーを与える。産まれてすぐ実母を失った伊織を息子同然に可愛がった信幸の妻、お高・高千穂しのぶは、童貞のまま死んでしまう伊織を不憫に思い、せめてこの世に生きていた証を残してやりたいと願う。

 墓参りを理由に一日だけ外出を許された伊織は、故郷の浜でお高と結ばれた。

 いよいよ切腹の日、兄に介錯を頼んだ伊織だったが、目に余る殉死ブームを止めるために徳川幕府が下した「殉死禁止令」により命が助かってしまう。

 藩のゴタゴタを庶民に知られては困ると思った家老は、こともあろうに伊織を監禁しようとする。ここまで藩にコケにされ、おまけに実兄の嫁さんと契ってしまった自分に耐えられなくなった伊織は、幽閉先の寺へ護送される途中、逃亡する。

 激怒した家老は、伊織を不義密通の罪人として斬り捨てるよう、信幸に命令。お高は伊織の後を追って、あの思い出の浜に来る。そこで伊織に再会したお高は、生きていたいと懇願する伊織を小太刀で刺し自分も死のうとする。そこへ信幸がかけつけ伊織を斬る。お高は信幸の目の前で自害した。

 人の命をなんだと思ってるんだ!と声に出して叫ぶ伊織と、心のなかで叫ぶ観客の一体感。

 殉死というのは本来、死んだ君主の近臣や妻が自主的にやるべきもんだと思うんだけど、その本来の目的が失われ、いたずらにブームとなって、いつのまにか為政者にとって都合のよい制度として利用されたことによる悲劇の物語。

 憎まれ役の渡辺文雄。血も涙もない官僚チックな体制側の役どころを演らせると実にハマるね。ヤクザ演っててもそうだけど、押し出しはソフトなのに妙に鼻につくインテリ系で、実は本当に悪いのは制度や体制なのであってこの人の個人的な罪ではないのだけど、それに疑いもなく従って、かつ、残忍だというところ。これが実社会のプチ権力者にはいくらでもいるキャラクターで、その典型を演っていたわけだ。

 森美樹という俳優は当時としては長身でエキゾッチクな顔だちでありながら、時代劇によく似合う気品のある俳優。若いうちに事故で死んでしまったのが本当に惜しい俳優の一人。森は弟役の山下洵一郎とともに、超美型兄弟を演じ、この理不尽な悲劇をデカダンな雰囲気で盛り上げた。

 「武士道残酷物語」や「仇討ち」とはまた違った味わいの、武家社会の悲劇を描いた秀作。

2000年01月02日

【追記】

※本文中敬称略


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■日のあたらない邦画劇場■

file updated : 2003-05-16