森繁のデマカセ紳士

■公開：1955年
■制作：新東宝
■監督：渡辺邦男
■助監：
■脚本：須崎勝弥
■原作：キノトール
■撮影：
■美術：
■音楽：
■主演：森繁久彌
■備考：ペテンの条件とは？

　森繁久彌はプライドの高いペテン師である。銀座でストリッパー兼スリ（よく考えるとスゴイ）である江畑絢子と知り合った森繁は、彼女を怪力娘に仕立て上げて、女子プロレスラーとして興業主の江川宇礼雄から十万円を契約金として受け取ることに成功。

　だがしかし、江川の手下の坊屋三郎が紹介したホステスの紫千鶴は実は江川の子分の阿部九州男とグルで、「パトロンと無理やり結婚させられる薄幸の娘」というシチュエーションにまんまとだまされた森繁が、紫の父親に化けた阿部に契約金を渡してしまう。

　直後、インチキ芝居を見抜いた森繁が、ニセモノの拳銃で江川を脅して再び金を取り返すと、今度は江川が江畑絢子を本職の女子レスラーに痛めつけさせて森繁に脅しをかけて来たが、失神させられる寸前に江畑が金を隠したので十万円は無事に二人のモノに。

　森繁の次なるペテンは、江畑絢子を東南アジアの舞踏家として大劇場に売り込み、オハイソな有閑マダムたちからたんまりと入場料を巻上げる作戦。江畑絢子の正体を見破っていた芸能評論家が暴露記事を書くのを差し止めたのは、森繁に色仕掛けを見破られて面子丸つぶれにされた紫千鶴。彼女は江畑絢子をほめちぎる記事を発表させて、二人にますます金を稼がせてから上前をハネるつもり。

　しかし森繁が自ら正体を明かしてしまったため、紫の計画は水の泡に。腹の虫が収まらない紫は、阿部と共謀し、森繁が仕掛けていたペテンの横取りを企む。しかし、これも謎の中国人に変装した森繁にまんまとしてやられてついに観念したのだった。森繁と江畑絢子はなけなしの金で買ったウエディングドレスを着て、二人きりの結婚式を挙げた。

　森繁久彌が冒頭で、ミュージカル仕立ての自己紹介。そこにイキナリ顔を出すのが貧乏画家？風の天知茂で、「ペテンが芸術なら僕もペテン師だ」と哲学的な台詞を残してはける。ここんところのセットが涙が出るほどビンボくさいのが泣かせる。

　海外のチョー一流というキャッチにころりとだまされる人々、それを助長する評論家という人々。森繁が「ペテンを成立させるのは、だます人と、ペテン師にだまされる人と、評論家とマスコミ」という意味の演説を一席ぶつシーンには考えさせられるものがある。

　森繁久彌の映画は古くない。もちろん映画の中の風俗は古すぎてちょっとなあ、とは思うけど、森繁だけ見ている分にはテンポもセンスも全然古くさく感じないというのが凄い。

　森繁久彌ってただ健康なだけでここまで生き延びたんじゃないんだよね。マスコミやら取り巻きが持ち上げて成立してるヴェテランとは一味も二味も違うンよ。頭キレまくってる人だね、それがこの小さな映画からでもちゃーんと伝わって来るんだよね。

　ヒロインの江畑絢子はスタイル良し、顔良しの美人女優。ちなみに本名は森繁子、偶然だけど出来すぎだ。あと、時代劇の阿部九州男の現代劇、つまりノー・チョンマゲ姿は初めて見たけど、意外とダンディーで素敵なんでびっくり。

（2000年02月04日）

【追記】

※本文中敬称略

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